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インチュートリアル(1)

 この頃は森にすむ動物たちも増えてきた。一時期動物どころか人間すらも全く寄り付かなくなったこともあった。勇者の修行が行われていた時期だ。勇者の修行は我々に任せられた。というより押し付けられたといった方が近いだろう。世界で最も強いものを集めて選ばれた勇者なのだから、それより強いものもそれに修行を付けられるものもいないわけだ。というわけで勇者にはお約束の伝説や伝承に基づいて妖精の住まうこの森へと送り込まれたわけだ。本当に迷惑だ。我々も、もとより拒むつもりなどないが、別に人間を贔屓するつもりもない。魔族を滅する力を与えろなどと言われても困ったもんだ。

 そもそも人間と魔族にどんな違いがあるのか君たちに説明しなければなるまい。人間には白い肌に青い目、魔族には褐色の肌と赤い目。そして人間には魔法が一種類しか扱えない代わりに成長するスキルツリー魔族には強力なスキルを一つしか扱えない代わりに成長する魔法の才能を持つ。そもそも人間と魔族という呼び方も君たちにわかりやすいように使っているだけでこちらの言葉ではスキラーとウィッチャーと呼ばれている。それぞれの魔力は赤く、スキルのエネルギーは青い反応を起こす。しかし彼らは元は同じ種族なのだ。魔力は外界、スキルは体の内から生まれるエネルギーであり涼しい地域に住み体を覆いスキルの力を高めたもの。暖かい地域に住み肌を露出し魔力を高めたもの。その様子から人間は月の民魔族は太陽の民と呼ばれる。その違いがあっただけなのだが。まあ、どれほど嘆いてもその勇者に修行を付けたことに変わりはないのだ。もちろん、閉じられた世界で凝り固まった思考をほぐすように諭しはしたがな。つまりこの世界の勇者は諸君の考えているような特別な能力を持って魔王を打ち倒すものではなく、ただの国同士の戦争のシンボルだ。ちょうどいいそのころの勇者と我々の様子を少し話すとしよう。



 今日も叫び声が聞こえる。この世界の中心に位置する広大な森。その中には、修行に身を尽くす勇者と三人の妖精の姿があった。近くの村のものには聞こえるはずはないが、時折森の方を眺めては怪訝な顔をする。ただ森から動物が下りてくることが増えたことから何かがあると感じているだけだ。勇者に修行を付けている三人はそれぞれ妖精の上位存在であり、精霊、妖精王、悪魔と呼ばれるものであった。今勇者は悪魔に追い回されていた。息も絶え絶えに木々の間を駆け抜ける。背に迫る恐怖の塊を感じながら、教えられたように冷静になれるように自分に言い聞かせながら。絶対的強者から逃げる術を学ぶために。

 妖精たちはそれぞれ生き残るのに必要な異なる技や心を教える。それぞれの得意分野や、信条にのっとって相反する物事を教えるのだ。その中で誰の教えを信じ従ってもよい。しかし、相反する意見というものも時として同居することができるのだ。

 悪魔が最初に勇者に教えたのは生き残るための術であった。それにまず第一に必要なことは逃げること、隠れることでありそれに必要なものは知識や、技術、体力よりもまず先に心であった。逃げる時に少しでもためらえば死の確率は上がっていく。生きるため死なないために頭で判断するよりも先に動く。脅威からは逃げてもいい。そんなことを心に刻み込むために悪魔は、その殺気と恐怖を開放することにした。一日目その恐怖にあてられた勇者は足を震わせ失禁し、泡を吹いて倒れた。そこからは、毎日顔を合わせるたびに殺気に当てられ気絶する日々。いつしか勇者は悪魔に合わないように避けるようになった。だがそれでよいのである。世界中からもてはやされ、最強と呼ばれ、無意識のうちに天狗になっていた彼女にこれから待ち受けるのは未知の旅であり、余計なけがや疲れを回避するために、できる限りの危険は避けるべきなのだ。こうして悪魔の修行というこの森での第一段階が終了した。


 悪魔から逃げる心を学んだ勇者は逃げることを正しいと感じながらも悩みを抱えていた。逃げることで人を救えなかったら、自分はなぜ勇者として修行をしているのだろうかと。

「悩んでいるようですね」

そう声をかけたのは妖精王であった。

「逃げるだけじゃ勇者になれない。私がこの先脅威から逃げ出すことがあったらその脅威に勝てる人間はいない。悪魔の言うことは理解できるけど、私が負けたら誰も勝つことはできない。けど、わたしはもう立ち向かうこともできない。」

「勇者が勇気を失ってしまったと?」

「・・・・・・」

コロコロと声をあげながら笑っている。

「そもそもあなたは特別な力があるわけでも、勇気を評価されて勇者になったわけでもないのですから。あなたが勇気を失おうと何だろうと変わりませんよ。むしろ勇者という呼び名で祭り上げられている今の方がおかしいのですから。」

勇者は妖精王と初めて会ったときに物腰柔らかで丁寧に周りを見る人だ、と思った。しかし、少し時がたつにつれ周りと少しずれているというべきか、独特の価値観を持っているというべきか、妙な雰囲気を感じていた。妖精というものはそうなのかとも思ったが、ほかの二人からはそこまでの常識知らずな雰囲気を感じない。二人に直接聞いてみたりもしたが二人とも目を背けるばかりだった。簡単に言えば、その言動に狂気をはらんでいるのだ。自分が正としたものは何のためらいもなく人前に差し出し、退かない。会話の中で相手の意見を認めることはあるが、自分の意見も曲げさせない。おおよそ意見の提示というものに少しは存在するはずの遠慮が全くない。人の事情や経験から違う意見を持つはずの他人に自分の正しさを突き付ける。正しいことや優しい言葉の中に人の心が感じられない。勇者は少し苦手意識を持っていた。が、しかしどんな時であろうと毅然とした態度は勇者の目指す姿そのものでもあった。

「そろそろころあいだと思いました。次は私が修行を付ける番ですね。」

妖精王の修行とは悪魔に植え付けられた恐怖を乗り越えて、必要な時には立ち向かう勇気を持たせることだった。

その内容とは今まで逃げていた、悪魔と対峙して立ち向かうことだった。この人が悪魔なんじゃないのか。

「わたしはあいつに屈辱を与えられたんですよ。人に肌も見せたこともなかったのに、あなたの前だったらまだしも、よりにもよってここで唯一の男にあんな・・・」

「女の子としては辛そうですよね毎日毎日強制的におもらしさせられるの」

「っっっ!ほんとそういうこと言うのやめてください。」

「圧倒的な上位存在をあいつ呼ばわりしてしまうくらいには追い込まれているようですね。・・・私たちは自然や世界などとほぼ同じ存在ですからたとえみられていたとしてもそれはただの野外放「やめてくださいよそんなこと言うの。それで慰めているつもりですか。」

慰めているつもりなのだ。

「・・・あれも存外悪い男じゃないですよ。」

「・・・・・・それで本当に慰められているつもりなんですか。知らないですよ。」

何度も言うが実際慰めているつもりなのだ。結局何の慈悲も猶予もなく修行は始められた。しかも悪魔の時のように意識改革するでもなく、体力づくりとバフをかけて、応援の声をかけてのトライアンドエラーである。何十日もかけて気絶しなくて済むようになり、少しずつ前進していった。そうして悪魔と目を合わせられるようになったころ、まだ、なんの力もつけていないうちはこんなものだろうと切り上げられた。


 相当な負荷をかけた体を休めるために精霊のいる泉へと向かった。精霊は・・・ちゃらんぽらんな人だ。彼女は水のあるところならどこにでも行ける。ある日頬を伝う汗から声がして、手に落ちた汗が人の形をとったときは色々と絶句した。そんな精霊が彼女に教えたのは心を軽くするということだった。気を張り十分な休息をとれないでいると早々に体を壊してしまう。だから正しく気を抜いて体を休ませることが重要なのだと。勇者は初めて精霊がまともなことを言ったのを聞いた気がした。泉での水浴びをしながらしばしの談笑。そこへ、妖精王がやってきて言う。もう一つ伝えなければならないことがあると。自身の成長だけでなく、仲間の存在が脅威に立ち向かう勇気へとつながる。だから今旅に出て仲間を探すとよい。仲間を見つけて帰ってくると体や戦闘に関する修行を付けようと。そして「一つ忘れてはならないことが。私たち三人はあなたの味方ではありません。・・・驚きましたか?私たちはスキルも魔法も使いますしどちらもの国からやってくるものに変わらず修行を付けます。あなたの求めるものが何なのかよく考えて旅をしなさい。あなたの出した答えによっては二度と私たちが迎え入れることはないでしょう。」こうして勇者は仲間探し、ついでに自分探しのための旅に出たのだ。「ヒント出しすぎじゃない?優しいんだから。」「・・・水筒から頭を出さないでください。」



こうして勇者は仲間探しの旅に出ることになった。まあなんとも俺が悪者のようになっているが、俺も憎くてあんなことをしてたわけでもないし、勇者との関係も今は良好なんだよ。まあ一度彼氏彼氏だって言って連れてきたやつを殴ってあごの骨をバラバラにしてしまったときには一週間口をきいてもらえなくなったけど。しかもその男は彼氏でもなんでもなく我々のために連れてきた、商人だったわけだが。いやその男は精霊の泉にポイっとして元通りに治しといたよ。ちゃんと謝ったしね。「あたしの泉を便利な道具にしないでほしいんだけど。」「それにあれを謝ったといって良いのでしょうか。」「「ねー」」いいんだよ、なんだって。それにお前らも抜剣してたり魔法陣展開してたりしたの見てたぞ。「あなたは、攻撃にためらいがなさすぎです。」「あたしたちは、変な奴だったり腰抜けだったらってちょっとおどかしてやろうと思っただけだし、攻撃する気なんてなかったよ。」そもそもあんなくだらない冗談を言ってきた勇者が悪い。「うっわ、人のせいにしだしたよ。」「それはどうかと思います。」お前らいい加減にしろよ。とにかくこうして勇者は仲間集めの旅に出ましたとさ。おわり。ちゃんちゃん。「終わりませんが。」

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