輝きの無いランドセル
第4回下野紘・巽悠衣子の小説家になろうラジオ大賞応募作品です。テーマは「ランドセル」。
※今回は笑い要素ゼロです。
昔はランドセルが赤と黒だけだったと言うじゃないですか。私の時代もそうでした。
でも他に選択肢も無く、赤以外が羨ましいなんて事はありませんでした。
私が羨ましかったのは、ピカピカ輝くランドセルです。
「おじいちゃんがランドセルを買ってくれたのよ。お礼を言いなさい」
目の前に大きな箱を置かれ、私は興奮していました。
TVのCMで見ていた赤いランドセル。けれども箱を開けた私はえっ? と思いました。
TVで見た様に、ピカピカ輝いていない。
赤もくすんで臙脂色に近い。
「こんなのランドセルじゃない」
私が喜ぶ事を期待していた大人達は機嫌が悪くなりました。
「これは本革だから良い物よ」
「せっかくおじいちゃんが買ってくれたのに」
「高い金を出して良い物を買ってやったのにこいつは可愛げが無い!」
何を言われようと、私が憧れていた物ではありません。CMのランドセルは人工皮革製だったのです。
祖父が買ってきたのは本革のランドセル。当時はコーティングも染色の技術も今ほど高く無かった為、艶や輝きもなく色も地味で、しかも重かったのです。
祖父は昭和の頑固ジジイでした。
高い物の方が良いに決まってる。人工皮革なんて絶対にだめ。色が地味? 同じ赤なんだから良いだろう! と、考えを譲る気などハナからありません。
勿論買い換える事などできず、私はその重いランドセルを背負い片道30分の通学路を歩きました。
目の前にはランドセルを背負う沢山の子供達がいて、皆ピカピカ輝いていました。
雨の日になると、私のランドセルだけぽたぽたと水がしみこみました。それを見た私の目からもぽたぽたと水が落ちました。
右へ倣えの風潮が強かった時代、皆と違う私のランドセルは揶揄われました。
「お前のランドセル、ボロボロだよなー」
「あ、これ爪で引っ掻くと絵を描けるぞ」
「やめて!」
当時の本革は傷つきやすかったのです。私は何度も傷つけられました。
「ホントにコレで良いの?」
「うん!」
娘と売場に行くと出迎えたのは虹の配色で並べられたランドセル達。
ピンクもミントも水色もあるのに、娘が選んだのは茶色いランドセル。
でもその茶色は金属のようにピカピカ輝いていて、銀の箔押しやピンクの縁取りと刺繍が可愛らしく、手の込んだお菓子の様です。
「コレ選んだ私って神だわ」
小5になった娘は、ピンクを選ばなかった事を自慢気にランドセルを背負います。
ランドセルは多少の傷も有るものの、未だピカピカに輝いています。
ランドセルは子供自身で選ばせてあげて下さい……。
お読み頂き、ありがとうございました!