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氷魔法の弓騎士 ~パン屋の息子は騎士になる~  作者: もっちゃれら
第一章 訓練生編
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第8話 合格発表と初授業

空がほんのりと赤く染まりはじめたころ、会場の中央には貴族、市民問わず参加者全員が集まり、試験の結果発表を、緊張と期待が入り混じった気持ちを抱きながら待っていた。

最初の並びになったので、隣にトーマスがいるがほかの三人とは離れてしまった。少しの間とはいえ、苦楽を共にしたチームが離れてしまうのは少し寂しかった。




少しした頃、前の試験官から「傾聴!!」という声が響き、広場が一瞬静まり返った。そして、コンラッド試験官が壇上に立ち、厳かな声で発表を始めた。


「これより、今年度の騎士団入団試験の合格者を発表する!」


貴族組から名前が呼ばれていく。最後まで呼ばれなかった者の中には、期待していなさそうな顔をした者も、涙を拭う者も居る。不合格者は、女が多い。


一人ずつ名前が呼ばれていくなか、オレは自分の心臓が跳ねるように緊張しているのを感じた。名簿を読み上げる声がひときわ静かに響く。


「エレナ・ローズ!」


エレナが呼ばれた。続いて、


「ユーゴ・アロンソ、ライラ・バーティル!」


ユーゴもライラも合格だ。

残りはオレとトーマス、そして・・・


「ルーカス・フール、トーマス・グラーシ!」


その瞬間、息が止まるかのような静けさが一瞬だけ広がり、次に湧き上がったのは喜びと言葉にならない感情で満たされた。憧れの騎士としての新しい道が、今ここに開かれたのだ。



「諸君!この三日間ご苦労だった!合格者はこれから騎士団研修生として訓練を積んでもらうことになる。今回の試験などお遊びだと思えるほど過酷なものだ。覚悟を持って日々励むように。

不合格者は来年の試験にもう一度来てもらいたい。不合格者の次年度の合格率は、今のところ100%だ。

・・・そして現在、このフィルバラード王国及びその周辺国、ひいては人類の生活圏が魔物に脅かされている。したがって我々騎士団は、この国を守るためにも新たな英雄を望んでいる。君たち一人ひとりがこの国を守り導く英雄に成ることを切に願っている。以上だ!」


コンラッド試験官のスピーチの後に解散し、それぞれが城の東門を後にする。

帰りの道中、チームの五人で喜びを分かち合い、また今度と解散する。


少し不穏な話もあったけど、今は騎士団の一員になれたことを精一杯喜ぼう。


家に帰り合格の話をしたときは、父も母も大喜びしていた。弟はオレを憧れのまなざしで見ていたのが少しくすぐったかった。

合格祝いの少し豪華な夕食のときに氷を生成し、父のビールに入れてやるとすごく喜ばれた。





合格発表から二週間が経ち、オレたちは正式に研修生の一員として、訓練の日々を迎えることになった。この二週間、魔力の操作や魔法の発動の鍛錬は怠らなかったからか、少し上達し、割と思い通りの形態変化ができるようになった。ただ形態変化に魔力を使うと強度を上手く出せない。そしてより疲れる。

やはり魔法というのは奥が深い。


初日の朝、研修生たちは薄暗い時間に目を覚まし、朝露に濡れた訓練場へと集まっていた。

まだ眠気の残る中、コンラッド()官が声を張り上げて話し始める。


「騎士団研修生としての訓練は、ただ戦闘技術を学ぶだけではない。体力、精神力、仲間との連携、すべてが騎士に必要な要素だ。しかし、それも最重要ではない。魔法というものは、知識が最重要なのだ。魔法は今この瞬間も新たな道を拓くべく研究研鑽されている。これから魔法を学び、そして研究し突き詰めてゆく。それが君たちのもう一つの使命なのだ。で、あるからして、本日は座学を行う。列を乱さず、ついてくるように」



初めての授業。

オレたちは、教室に連れて来られ、順番に席に案内される。ユーゴと隣になった。トーマスは前の席だ。雷属性の奴も、水属性の奴も当然居た。まあ希少属性が落ちるわけないよな。


「ルーカスが隣でよかったよ。オレあんまり話すの得意じゃないからさ」

「オレもだ」


コンラッド教官が教壇に立つ。

「改めて、君たちの教官を務めるコンラッドだ。私は一昨年まで第一戦線部隊に所属していた。こと近接戦闘に関してはここの教官で一番詳しいはずだから、訓練の際は何でも聞いてくるように」


第一戦線部隊。

コンラッド教官曰く

魔物等と大規模な戦闘を行うとき、最前線で敵と衝突する騎士団の花形部隊の一つだ。

敵味方入り乱れるので、大魔法よりは効果範囲の狭い魔法を使いながら己の肉体を頼りに剣や盾などで戦う、総合的に高いレベルに居ないと務まらない一番大変な役割でもある。


「話が逸れたが、魔力の話から始めよう。」

そして授業が始まった。


曰く、

・魔力とは空気中から取り込み、自身に最適化されたエーテルである。

・魔力には属性があるが、エーテルに属性はない。

・エーテルとは聖樹が生み出す清浄なエーテルのこと

・聖樹とは、濁ったエーテルを清浄なエーテルに浄化する人類にとって必要不可欠な存在である。

・魔法を発動する前に音を発するのは、自身の魔力を外のエーテルに干渉させるため。

音を発する部位は自身の魔力が通う部位であればどこでも良い。ただし、防具を身に着けていると若干、干渉範囲が狭まる。

・干渉すると、そのエーテルは一時的に干渉した者の魔力になる。したがって属性も干渉者の属性に変わる。

・エーテルは空気中を漂うものであるから、同じ場所で何度も魔法を使用した場合、一時的にその場のエーテルがなくなり干渉できなくなることがある。

・エーテルは何らかの原因で濁る。

・濁ったエーテルを取り込み続けると魔物化することがある。

・魔物とは濁ったエーテルに適合してしまった通常生物。

・魔物は清浄なエーテルを濁らせる。

・魔物は、強力な個体はエーテルを使い魔法を行使することがある。

・人類は清浄なエーテルに適応した生物であるため、生存圏に魔物が侵入した場合は排除しなければならない。

・よってその排除行為を行うのがこのフィルバラード王国においては我々フィルバラード王国騎士団である。

「と、言うことだ。」


つまり魔物は絶対に倒さなければいけないじゃないか。

心なしかトーマスの背中がこわばっている気がする。


「つまり君たちは、今後君たち自身を直接脅かす存在と相対することになる。

中途半端な実力では濁ったエーテルに取り込まれ自分が魔物になるか、魔物に食われるかという最悪な結果にしかならない。まあそれを可能な限り防ぎ、魔物を倒すために訓練するんだがな。」

話でしか聞いてこなかった魔物という架空の存在が今は現実味を帯びて恐怖すら感じる。

教室の空気も真剣というより不安に飲まれている雰囲気だ。


オレはこれからやっていけるのだろうか。もしかしたら、パン屋として人並みに生きていく方が刺激は少なくとも平穏で楽しい生活が待っていたのかもしれない。

嫌に弱気になってきた。


「よし、次は属性について説明するぞ」

気持ちを無理やり持ち直して耳を傾ける。


「まず、一番多い火属性からだな。戦いにおいて火属性の真髄は、爆発である」



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