表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
氷魔法の弓騎士 ~パン屋の息子は騎士になる~  作者: もっちゃれら
第一章 訓練生編
7/45

第7話 最終試験3 案山子への一撃

いくつかの試練をクリアし、試験場の端まで来た。ここまでの試練はサバイバルで生き延びることを前提に組まれた試験だったと思う。だが次のエリアにはそのような雰囲気はない。

だから多分、これが最後だ。



最後のエリアに五人が並ぶ。

目の前には白いボーダーラインが一本、五十メートルほど離れた場所には三体の案山子が見える。

これが最終試練だと、試験官がオレたちに向けて声を上げた。


「最終試練は、あの三体の案山子をチーム全員で協力して倒すこと。距離が離れているが氷や岩を投げて攻撃することは禁止する。そして個々の力ではなく、魔法を組み合わせて攻撃をすること」


オレは案山子までの距離を見つめ、考え始める。

あの案山子は藁と木でできている。順当に考えれば燃やすのが正解だろうが・・・。


「とりあえず燃やすのが早いと思うわ」

やはりエレナも考えていたか。だが・・・


「この距離を飛ばせるか・・・?」

この距離は、オレたちが簡単に突破できないように設定されたものだと思うんだよな。

オレの疑問にエレナとユーゴ、ライラが答えた。

「ライラの風と合わせれば、届くんじゃないかしら」


「うん、やってみる価値はありそうだね」


「私もできる限りやってみたいです」


確かに見もしないで否定するのは無しだ。

これで成功するのを期待して見守ろう。



エレナとユーゴが互いに斜め内側に向き合い魔力を練る。エレナが勢いよく手を叩き魔力を広げる。

そして今度は両掌を前に向ける。

10メートルほど先に彼女の頭よりも大きな炎が一瞬の光と共に現れた。

そしてユーゴが炎に魔力を注ぐ。彼は適性が低く、ここまで大きな炎は生成できない。

だから炎を維持する燃料係になったらしい。


そしてライラが二人の間、少し後方に立ち魔力を練り始める。そして・・・

「風よ!!」

大きく声を張り魔力を広げた。

音なら声もありなのか!かっこいいな・・・。


どこからかそよ風が吹いてきた。風は少しづつ勢いを増し、髪が大きく乱れるほどの追い風に変わった。

前を見ると、上へと伸びていた大きな炎が案山子に向かって勢いよく吹いている。

だがまだ少し届かない。


「ルーカス!加勢するぞ!」


「おう!」


急いでトーマスと共に炎に魔力を練り、手を合わせるように叩く。


だが、魔力が広がらない。何故だ・・・?


炎はまだ維持されているが、少し弱まってきたか。



「なんでだ・・・?」

トーマスも困惑している。とうとう魔力が尽きたのか・・・?


そうこうしている間に炎が消え、風がどこかへ去ってしまった。


「一体だけ届いた・・・」

エレナが疲労の色を浮かべ、汗をぬぐいながら案山子を見ている。


真ん中の案山子には火の粉が届き、所々焦げている。

炎の本体は届かなかったみたいだ。


ライラは息が上がっている。膝に手を当て下を向きながら言った。

「これが、私の、、限界でした」


エレナよりも疲れていそうだ。


「・・・すまねえ、魔力が広がらなかった。」

トーマスは困惑したまま3人に詫びる。


オレは試験官を見る。疑問を察してくれたようだ。

「エーテルが枯渇したからだ」


予想外の試験官の言葉に、五人は耳を傾ける。

「魔力を広げて魔法を発動させる、というのは、周囲のエーテルを消費するということだ。

狭い範囲の一か所で何度もエーテルを消費すればなくなる。単純な話だ。規模の大きな魔法を使えば一発でなくなることもある。だがもう使えるはずだぞ、使えなくなるのは長くても数秒だけだからな」


間髪入れずに無限に使い放題ってわけじゃないのか。

そうなると、でかい魔法を一発か、小規模魔法を連発するか組み合わせるか、か。


「そういうことだったのか・・・」

トーマスがすこし残念そうに一人ごちた。


「だがまあ、真ん中の奴は倒したと見なしてやろう」


「本当ですか!」

「やった!!」

試験官が言うとエレナとライラは顔をパッと明るくさせて、疲労なんてなかったかのように飛び跳ねてハイタッチしている。



「残りは2体か・・・」

「ああ、だがあの大きさの炎はもう厳しいだろうな」

「オレもあれは出せないし、燃やすのは厳しいかもね・・・」


オレの言葉にトーマスとユーゴが答える。だがユーゴは炎属性だ。何か方法はないのか?


「思い付いたんだが、いいか?」

トーマスが言った。





___氷の鏃を造る。何十個もだ。

トーマスの案は、オレとトーマスで尖った拳大の氷と礫を沢山生成し、風魔法で飛ばすというもの。

ライラは何とかやってみると言ってくれたが、オレたちが持つか不安だった。


炎は魔力を注げば持続するが氷と岩は魔力を注げば造り続けられるわけではないのだ。

一度生成してしまえば終わり。それ以上できることはないから、オレたち自身でやるしかないのだ。

属性ごとに善し悪しがあるということを痛感している。


何とか二十個ほどの氷鏃を造った。トーマスも同じような感じだ。

二十個目なんかは拳の半分くらいの大きさにしかできなかったが何とか数は集まった。


これらをトーマスが追加で生成した岩の器に無造作に入れる。


「よし、あとはライラ頼みだな!」

トーマスが寝不足みたいな顔をしながら余計なことを言う。


「が、がんばります・・・!」


ほら緊張しちゃったじゃないか。



緊張しながらもライラは魔力を練っていく。

「風よ!!!」

先ほどよりも気合の入った声でライラが魔力を広げる。


そよ風から強風へ。先ほどよりも少し強い強風が、上へ向けて吹いていく。

そして・・・


「せーの!!!」


オレとトーマスで器ごと上へ放り投げる。強風に乗った氷と岩の鏃たちが案山子へ向かって飛んでいく。



____一瞬の鏃の雨。

見るからに痛々しい雨が、硬質な音を立てながら案山子に直撃した。



鏃たちは2体の案山子の胴や頭の刺さり、右の案山子は腕を折られていた。

上から降らせる攻撃は普通に飛ばすよりも強くなるみたいだ。



そして・・・


「問題ない、合格だ」


試験官も淀みなくはっきりと、合格と言った。


「ライラすごいわ!!風魔法大活躍ね!!」


「いやあ、あの威力には驚いたよ」


「ありがとうございます。でも二人のおかげですよ!」


「そんなことないぞ、エレナとユーゴが1体倒したわけだし、みんなで勝ち取った合格だ!」


トーマスの言うとおりだ。皆で協力し合えたからこそ最後まで走り抜けられた。


 

季節は秋。高く澄んだ青い空に浮かぶ光が、オレたちの行く末を照らしているようだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ