第6話 最終試験2
「この薪を使って焚火を囲んで、水を飲みながら一休みしろ」
いきなり何を言ったかと思えば。
だが言葉の意味は理解できている。割られていない薪を割るのも、焚火を起こすのも、水を飲むのも全て魔法で行えということだ。
「さて、まずは薪を割らないとね」
割る前の薪、小さいサイズの玉切り丸太を軽く叩きながらユーゴが言った。
割ると言ったってどうやって・・・。
氷の鉈を仮に作れたとしても湿らせてしまっては意味がないし、そんな強度のある氷はオレには作り出せない。
「そのまま燃やせないかしら」
「それは効率が悪いし、弾けて危ないんだ。オレの実家はパン屋なんだけど、父さんにそう言われたんだ」
誰かが言うと思っていた。そしてオレはこれをやって父にぶん殴られた。
「やっぱり土魔法しかないと思います」
「そうだね、オレもそう思う」
ライラがそう言うと、ユーゴも続く。
「自分で言うのも何だが、土魔法は便利だな」
「そうね、サバイバルには欠かせないかも」
「じゃあトーマス、頼めるか?」
「おう、任せとけ!」
トーマスが魔力を練り、片膝をついて両手を地面を叩いて魔力を広げる。
そして集中し始めてから待つことしばし。
先ほどよりも角が立った、横にした三角柱が現れた。
「これでどうだ!さっきよりも硬くしたぞ!」
これなら、薪を叩きつければ割れるかもしれない。土魔法、大活躍だ。
この後男3人で薪を角に叩きつけて、何とか割ることができた。
「つぎは・・・燃やす?」
エレナが少し自信なさげに、誰に言うでもなく問う。
「土手を掘る、かな」
ユーゴが答えた。これはオレも知らなかった。ユーゴは経験者らしい。
「きっとこれも魔法でやらないとだよな。よし、もうひと踏ん張りだ!」
適性があるとはいえ、使い慣れていない魔法を何度も使ったことで疲労が溜まっていそうだ。
一度使っただけでもかなりしんどかったんだ。トーマスの余力が心配だ。
土魔法は非常に便利だが、トーマスに負担が集中すると今後さらに必要な時に持たないかもしれないな。
「いや、ここはオレが氷で何とかするよ。トーマスは休んでてくれ」
「・・・すまねえな。実をいうと、もう結構しんどかったんだ。体力には自信があったんだけどな」
力の試練や持久力の試練をクリアしたはずのトーマスがここまで疲れるとは。
魔法を使った時のあの何とも言えない疲れは、単に体力を消耗するだけではないらしい。
「この後もっと土魔法に頼る時が来るかもしれないからな。それまで少し休んでおいてくれ」
「ああ、わかった」
魔力を練り上げ、掌に流す。
そして、手を叩いて魔力を周囲に広げる。そして掌に魔力を集める・・・
ここからだ。
魔力を冷やして凍らせるイメージ、形のイメージ、そして魔力の状態の知覚。
そして歪な氷のスコップが出来上がった。
「よし」
やはりこの疲労感は独特だ。体力も力も残っているのに、走れる気がしない。
これが魔力を消耗するということなのか。
魔力で生成した氷は普通の氷と比べ、強度が高く溶けにくいらしい。
特に問題なく土を掘ることが出来てしまった。
「魔法って本当にすごいのね。氷で頑丈な道具が造れるなんて」
確かに、エレナの言うようにこれだけ氷が頑丈で持つなら、上達すればその場で武器や防具が造れる。ものすごいことじゃないか!
ここにきて魔法の凄さを実感できてきた。
そしてエレナが微笑みながら前に出た。
「やっと私の出番ね。火が活躍できるわ」
そう言って試験官に指導を請う。
試験官に教えられた通り、手を合わせるように向かわせ、目を閉じて集中を始める。
そして手を叩く。
彼女の周りのエーテルが彼女の魔力に変わる、そして深呼吸しながら手を前に差し出した。
すると掌の上が徐々にオレンジ色に明るくなっていき、ポッと小さな火の玉がエレナの手元に生まれた。
それをライラとユーゴが組んでくれた焚き木の小さな山まで持っていき、近づける。
時間はかかったが、ユーゴも火を生成し手伝ったことで小さな焚き火が燃え上がった。
魔法で生み出した火は、魔力を消費し続ける限り消えないらしい。
______暖かい橙色の炎が彼らの顔を照らし、冷え込んでいた朝の空気をじんわりと温めていく。
皆の顔が和んでいくのが分かる。そういうオレも、今だけは緊張感がどこかへ行ってしまった。
「火の魔法は、やっぱりこういう時に必須だよね」
ユーゴが感心して声を上げた。
「そうね」
エレナは少し照れたように微笑んだ。
次は水の準備だった。
水自体は氷を溶かせば良い、問題は器だ。
「氷を火で溶かせば、水は作れるけどな・・・」
「ちなみに土魔法は無理だぜ、泥水なんか飲みたくないし水と混ざらないくらい強い岩は作れない」
オレが言うとトーマスが先制し、皆が確かにと頷く。
「いっそおおきな氷の塊を造って、溶けだした表面の水を飲むというのはどうでしょうか。水を飲め、と言われただけですし」
ライラが焚火に両手をかざして、暖を取りながら言った。この人は小動物みたいな可愛さがあるな。
「それが手っ取り早くていいかもね」
「私もそれがいいと思うわ」
「オレも賛成だ」
満場一致でそういうことになった。
手を叩き、魔力を広げる。
イメージするのは大きなスープ皿だ。
歪んだ氷皿が出来た。
疲労がひどいが、あと2回くらいは魔法を使えそうだ。
トーマスよりも多く魔法を使っているが、オレとトーマスではなぜか疲労度合いが違う。
何故だろう。
「あとは溶かすだけね」
エレナが皿の中央に火魔法を灯した掌を近づけると窪みができ、真ん中だけ溶けていく。
そして5人で回し飲みをしていく。
「よろしい。合格だ。」
試験官の言葉にオレたちは顔をほころばせ、ハイタッチをする。
あといくつのエリアを回るのか、それが気がかりだ。