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氷魔法の弓騎士 ~パン屋の息子は騎士になる~  作者: もっちゃれら
第一章 訓練生編
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第38話 騎士団昇格試験 8

翌朝。

朝一の鐘が鳴り、部屋の床で目が覚めた。

体を起こして見渡すと、皆も床で雑魚寝している。

テレーズだけは、ちゃっかり向こうのベッドで気持ちよさそうに眠っている。


気持ち悪くて頭が痛い。

二日酔いだ・・・。


楽しかったことだけは覚えているが、細かい記憶は曖昧だ。


皆を踏まないように洗面台へ向かい、軽く顔を洗って口をゆすぐ。


ああ、歯を磨きたい・・・。

まだ朝一の鐘が鳴ったばかりだから、出発までは時間がある。

良し、風呂に入ろう。


そう考えながらテーブルの方へ戻ると、ロイとトーマスが起きていた。


「おはよう、二人とも」


「おう」

「おはよう」


二人を風呂に誘い、少し会話をしているとその声で皆が目を覚まし、結局全員で大浴場へ行くことになった。


部屋を出る前、ロイが酔いを治すために水魔法を掛けた水を飲ませてくれた。

効果が出るまでには少し時間がかかるらしいが、ありがたい。


水魔法さまさまだ。


部屋を出て階段を降りると、従業員の人たちがすでに働いていた。

「おはようございます」と挨拶をして大浴場へ向かう。

女子組と一旦分かれて脱衣所へ入る。今はオレたちしかいないらしく貸し切り状態だ。


ふと鏡を見ると、全員の裸が目に入った。

昔と比べ、より筋肉質な体つきになった。

息子もデカくなったか?


そういえば一年前くらいに訓練生の安い給金をはたいて5人で娼館へ行ったな・・・。

結局あれ以来、行っていない。

まともに大人の階段を上っているのはユーゴだけか。


いいなあ・・・。

セレーネ教官は彼氏とかいるんだろうか。

いま居なくとも付き合ったことくらいはあるだろう。

そいつはセレーネ教官と色々やったのか?

くそ、羨ましい・・・。


「ルーカス、どうした?」


「ん?別に」


トーマスに声を掛けられ、いらぬ妄想を打ち消して欲情に入る。



浴場で歯も磨いてさっぱりした後、脱衣所で着替えて全員で部屋に戻る。

部屋に入ると温かいそよ風が部屋から吹いてきた。

中へ入ると、女子組がエレナとライラの魔法で髪を乾かしているところだった。

オレたちも温風に世話になり、髪を乾かしていく。

このホテルは女湯と男湯のシャンプーが違うらしく、いい香りが漂ってくる。


髪を乾かすと、窓を開けて換気する。

シエラと共に氷魔法で水を生成し、コップに入れて皆で飲む。


ロイの魔法が効いてきたのか、全員復活したようだ。

朝食は各部屋に運ばれてくるので、皆それぞれの部屋へ戻っていく。

昨日は結局防具の手入れはできなかったので、皆が戻っていったあと朝食が来るまで拭いたり磨いたりする。


無心無言で二人で手入れをしているとドアがノックされた。


「はい」


「おはようございます。本日の朝食をお持ちしました」


テーブルに積まれた皿とグラス、そして床に置かれたボトルを先に回収し、朝食を置いて行ってくれた。

メニューは、オムレツとサラダ、コーンポタージュに食パン、ヨーグルトだ。

ゆっくりする時間はないので、早めに食べて防具を身に着ける。

そして誰かが号令をかけずとも全員がロビーへ集まり、点呼を取る。

全員が揃ったのを確認し、お礼を言ってホテルを出た。


このホテルへは、またプライベートで来たいものだ。



既に活気が溢れ始めている通りを歩き、南の防壁へ集まる。

整列したところでオレたち氷魔法部隊は兵舎へ馬たちを迎えに行く。

兵舎に隣接する馬舎へ到着し、世話係から一人ずつ順番に手綱を受け取っていく。

すると、兵舎から教官たちがぞろぞろと出てきた。


「どう?昨日はよく眠れた?」


セレーネ教官が話しかけてくれるが、さっきいらんことを考えてしまったせいで変に緊張する。


「きのうはトーマスたちと飲み明かしました」


「まあそうよね。私たちの昇格試験の時もそんな感じだったなぁ」

「え~どんな感じだったんですか?気になります~」


「んー?えっとね・・・」


シエラが少し食い気味に話に入ってきた。シエラにしては珍しいような気がする。

二人の会話を流し聞きながら隊列の元へ歩いていった。



都市の人々に見送られ、要塞都市ファルマドゥーカを後にする。

多くの人に手を振られ、こちらもそれに応える。

オレたちが騎士に昇格するための試験として行った討伐が、この人たちにとってはそれほどありがたいことなのかと考えると、誇らしい気分にもなる。

だが付け上がってはいけない、オレたちはそれが仕事なのだから。


未舗装路に出ると蹄の音が小さくなった。

どうでもいいが、石畳や木の橋なんかを通る時の蹄の音が好きだ。

そんな益体もないことを考えていられるのもこの道が安全だからこそ。

同じ自然のはずなんだが、大草原とは違ってこの王都までの道のりは安全そのもの。


長閑な風景を眺めながら馬に揺られる。


濁りとは何が原因で生まれるのだろうか。

なぜ騎士団に入らなければ魔法の訓練ができないのだろうか。

この国の全員が魔法で戦えればもっと効率よく魔物を倒せるのではないか。


そんなどうでもいいことが、頭の中に浮かんでは消えていく。


「ルーカス、どうしたの?浮かない顔して」


「え?ああ、ぼーっとしてただけだ」


「そう?それならいいんだけど・・・」


シエラに話しかけられ、思考が戻ってくる。

気付けば空は茜色だ。


そろそろ野営地を決めないと。

丁度、広々とした平らな地点を見つけたので、そこを野営地に決めた。


テントを設営し夕飯を食べ、身体を拭いて歯を磨く。


そしてテントに入り毛布に包まると、すんなり眠れた。



それから二日後。

特にトラブルもなく、オレたちは王都に到着する。

訓練生としての生活が、遂に終わろうとしていた。

次回、訓練生編終了します!

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