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氷魔法の弓騎士 ~パン屋の息子は騎士になる~  作者: もっちゃれら
第一章 訓練生編
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第33話 騎士団昇格試験 3

馬車から出てきたのは、穏やかそうな紳士然とした、これまた筋骨隆々の初老の男性だった。

彼はにこやかに歩いてくる。


「騎士団の皆さん。今年もありがとうございます」


「ファリマ代官、こちらこそ。今年もお世話になります」


コンラッド教官と握手を交わすファリマ()()と呼ばれた男性は、

ジルス教官によるとこの街を治める代官で、ファリマ侯爵の親戚らしい。


笑顔で言葉を交わすと、代官はまた馬車に乗り、コンラッド教官がこちらに戻ってきた。

代官が自ら都市の南にある大草原に接する防壁へ案内してくれるそうだ。


馬に乗り、代官の馬車の後に続く。そういえば護衛は馬車の中に同乗しているのか、外には見えない。

街並みは色彩が少ないものの、人々の服装は色鮮やかなものが多く、笑顔が印象的だ。

地域柄か、武具防具の店がよく目に入る。武具の店の前に飾られている、大人1人が隠れられるくらいの長方形の大盾にはランスのような突起が正面に二つ縦に並んで付いている。


バイソンにダメージを与えつつ怯ませるためのものだろうか。

三メートルの巨体を受け止めるのは不可能だろうから、無いよりはマシくらいのものか?


程なくして南の防壁の前に到着した。

この防壁の門は桝形門(ますがたもん)になっていて、更に高い位置には矢を射かけるための矢狭間(やざま)が設置されている。


枡形門とは、四方をぐるっと防壁が囲む形になっていて、外と内に分かれる二重の門だ。外門は南、内門は東に配置した二重構造で、南門を突破しても直角に曲がる必要がある。

これにより、敵は直線的に進攻することができず、狭い通路内で行動が制限されるため、防御側にとって有利な状況を作り出せる。

対魔物の場合、基本は外門の草原側の矢狭間から駐屯兵が魔法や弓矢で対処するが、強い個体が来てしまった場合は敢えて外門を開放し、都市の男達も手伝って内側の矢狭間から矢を射たり防壁の上から大きな石を落としたりして仕留める。

そして、その内門は開かずの扉といった風体で、門の中央に三段にかんぬきが通されている。


今まさに外門から駐屯兵が矢を放っているらしいが、ここからでは見えない。

明日から始まる討伐作戦の内容を詰めるために、実際に大草原を見せてくれるらしい。

訓練生全員は入れないので、指揮官役を務めるヴィンセントと騎馬隊長を務めるオレが案内されることになった。


内門から東側に少し離れた壁にある小さなドアを開けると、そこは天井の低い薄暗い詰め所になっていて駐屯兵が待機していた。

光が入らないので壁に沿ってロウソクの火が並んでいるが、まるで牢屋みたいだ。

初めて入ったが、王都もこんな感じなんだろうか。


軽く挨拶をしたあと、案内役の兵士に続いて目の前の階段を上がる。

二階は武器庫のようになっていて、主に弓矢と、先ほど武具の店で見た大盾が所狭しと並び、片手で投石するスリングが壁一面にかけられていた。

弓はオレが使うようなロングボウがほとんどで、この街の男は弓の訓練もするのだとか。


確かに四方囲まれて雨のように射られれば、魔物といえどさすがに倒れるか。


とはヴィンセントの言だ。


三階に上がり右を見ると、兵士が矢狭間から矢を放っているところだった。2人並んで歩ける程度の広さで、防壁に沿って一本道。ロングボウを涼しい顔で引いているあたり流石というほかない。


「君は弓を使うんだろ?やってみるか?」


「いいですか?やってみたいです」


案内してくれた兵士さんが提案してくれたので、乗ることにした。


矢狭間の前に立ち正面を見据えると、その景色に目を奪われてしまった。


文字通りの広大な大草原。

視界の端から端まで草原の緑と空の青。

風が吹けば草が舞い、雲が不定形に流れていく。

地平線がデコボコしていると思ったら、それは山脈だった。

そしてシャリディヤバイソンの群れ。


「どうした?何かあったのかい?」


「あ、すみません。つい景色に見入ってしまいました」


気を取り直して下を見ると、外門に突撃しようと脚を漕いで土を蹴る真っ黒な牛が居た。

魔物化したシャリディヤバイソンだ。少し黒い靄を纏っている。

多分体高は三メートルくらい。牛の魔物にしては大きくない印象だ。


魔物は濁りを撒き散らし他の生物も魔物にしてしまうが、普通の牛の群れに影響はないのかと思ったが、広大すぎる空間では濁りに晒され続けることはないから、大した影響はない。という講義を以前受けたことを思い出した。


氷矢を生成して弓を構える。狙うは頭に生える巨大な角の間だ。

最近は騎乗射撃の訓練ばかりだったから、静止状態で狙えるのはありがたい。


矢を番えて息を小さく吐いた後、顎まで弦を引く。

間隔を研ぎ澄ませ、狙いを定める。

そして照準と軌道がはまった瞬間、放つ。


――放たれた氷矢は、風を切り裂き一直線に、そして瞬く間にシャリディヤバイソンの頭部へ深く突き刺さった。


シャリディヤバイソンは、声にならない悲鳴を上げながらその場に倒れ動かなくなる。


あれ?思っていたよりあっけないな。


「おお、頭に一発とはやるじゃないか!君には弓の才があるな」


「ありがとうございます」


「さすがだな、ルーカス」


「おう」


隣で射ていた兵士から褒められ、ヴィンセントにも褒められた。

一度負けた相手から改めて認められるというのは嬉しいものだな。


次はその場で大草原を見ながら、ヴィンセントと作戦の会議をする。


「この広さならば火魔法を全力で放つことができるな」


「そうだな。先に魔力干渉を済ませておいて、その後にオレたち氷魔法部隊が魔物を何体か引き連れてくる。そのあと爆破から行こう」


「了解だ。本隊は土魔法部隊を全方向に配置するのがいいと思うんだが、どうだ?」


「それでいいと思う。今回は全方位警戒した方がいい。あとは、基本的に氷魔法部隊は引き連れと討ち漏れの掃討でいいか?」


「それで構わない」


「テレーズはどうする?」


「今回は援護に回ってもらおう」


「わかった」


その後も兵士の人たちにアドバイスをもらったりして、作戦会議を終える。

お礼を言って3階を後にし、階段を降りる。

明日は、前衛の土魔法部隊は大盾を貸してもらえるそうだ。


トーマスたちなら、あの盾も使えるかな?


一階の詰め所を出ると、他の訓練生や教官たちが雑談をしながら待っていた。


「どうだ、明日のイメージは描けたか?」


「はい、問題なくやれそうです」


一言交わした後に、コンラッド教官と案内してくれた兵士にお礼を言うと、詰め所に戻っていった。


そしてこの場で各属性の代表者を集め、先ほどの作戦を共有する。

援護と言われたテレーズは、顔には出さないが少し不服そうだった。

この後の予定は、訓練生は貸し切った宿に行き、一泊。

教官たちはいつも通り詰め所で宿泊。コンラッド教官だけは代官と仕事の話があるらしい。


馬を連れ、防壁に沿って詰め所の更に東にある騎士団駐屯兵舎と書かれた大きな建物の厩舎に入り、世話係の人に預ける。

馬車を置く場所がないので防壁に沿って停車だ。


明日に備えて早く休んだ方が良いだろうが、まだ日も沈み始めていない午後。

少し街を散策してみたい気持ちと戦いながら、オレたちは宿に向かって行った。


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