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氷魔法の弓騎士 ~パン屋の息子は騎士になる~  作者: もっちゃれら
第一章 訓練生編
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第32話 騎士団昇格試験 2

後ろに蹄と車輪の音を聞きながら、馬に揺られて進む。コートの上から感じるそよ風が肌寒い。

賑やかな王都を出てしばらく。オレたちは西のトロモ村をまずは目指して進んでいた。


シャリディヤ大草原はファリマ候爵の領地で、関所を通らなければならない。

ファリマ侯爵領は東西南に伸びる形で南に伸びる範囲がシャリディヤ大草原になる。大草原の向こうは隣国の領地だ。

その侯爵領の西側から南へと入り向かう。

大草原へは、侯爵領が誇る要塞都市【ファルマドゥーカ】から出ないといけない。


なんでもファルマドゥーカの男たちは、魔物化したシャリディヤバイソンの対応を強いられることがあるため、屈強な者が多いらしい。ちなみにこの街の出身者が土魔法部隊にいる。

普段は侯爵の私兵とこの男たちが対応しているが、この時期になると魔物が一気に増加するらしく騎士団の訓練生による大規模な討伐は歓迎される。


常歩でしばらく進むと、未舗装路が緩やかに右へカーブし、なんとものどかな風景が続く。

右側の草原は放牧地で、牛が草を食んでいる。


「いつもごくろうさーん!」


藁をピッチフォークで掬っているおじさんがこちらに大きく手を振ってくれた。

オレたちは微笑みながら手を振り返す。

穏やかな気分で進む道中はいいものだ。


それから数時間、小休止を挟んでトロモ村に到着。一旦ここで昼食を取り、また夕暮れ時まで進む。

ここでキャンプをしたのが懐かしい。

あの時は一頭の熊に苦戦したが、今なら瞬殺できる自信がある。

いくつかの宿屋の分かれて昼食を頂くので、オレたちはクルトンの宿屋に入ることにした。

宿の手前の花は、相変わらず綺麗に咲いている。


「皆さんお久ぶりです。ユーゴ君もいらっしゃい!」


中へ入ると女将さんが迎えてくれる。ユーゴは何度も通っている、というかその娘と親御さん公認の仲なのでもう慣れ切っているようだった。

あの時と同じ食堂の真ん中の席に座る。

懐かしいな、あの時は確か肉を食べられなかったんだっけか。

今回はローストチキンとトマトのサラダ、オニオンスープにバゲットだ。


「「「いただきます」」」


ヴィンセントとシエラはナイフとフォークを使って、綺麗に食べていく。

骨に沿って縦に切り分け、一口大にカットしてゆっくりと噛みしめるように。

エレナ、ライラ、テレーズとロイはそれを見て真似をしながら同じように食べる。

対してトーマスは手とフォークを器用に使ってかぶりついている。

オレとユーゴは適当に切り分けると一口大には切らずに一気に口に運ぶ。やはり肉は大口で食べるのが美味い。

テレーズはしれっと最後に手掴みで食べていた。それを見たヴィンセントが微笑んでいる。


食事を終えて、女将さんにお礼を言って宿を出る。

村の入り口に向かっていると後ろから声が聞こえた。


「ユーゴ!!」


みんなが振り向くと、チナさんが居た。茶髪の一本の三つ編みに花柄の三角巾が似合う素朴な村娘という感じだ。


「チナ」


「無事に帰ってきてね」


「ああ、約束するよ」


手を握り合って言葉を交わす二人。周囲にピンクの花々が見える。


見せつけてくれるじゃねえか!


エレナたちのみならず、目撃した女性たちは黄色い悲鳴を上げている。

金髪たれ目のイケメンにはよく似合う光景だった。



夕暮れ時の草原を進む。

橙色と藍色のグラデーションが心を落ち着かせる。上を見上げれば、一番星が自慢げに輝いていた。


どこを野営地とするか、どこにテントを張るか。それもオレたち訓練生が決定しなければならない。

道を挟んで左側には林があり、右側には草原。

少しだけ馬に速度を落としてもらい、交代で御者を務めていたヴィンセントに話しかける。


「なあ、このあたりでいいよな。見晴らしもいいし、馬車でバリケードも作れる」


「そうだな。オレもそれで良いと思うぞ」


「わかった、ありがとう」


草原に入ると蹄の振動が柔らかくなった気がした。

一行が草原に入ると、御者係が巧みに馬車馬を誘導し、40メートル近い弓なりのバリケードが出来上がった。

次々とテントが設営され、焚火が魔法によっておこされていく。

焚火の上に台を設置して鍋を用意。

手際が良くなった分キャンプ飯も随分と豪華になった。

夜食を取って、雑談。

そのあとはタオルでからだを拭いて歯を磨く。

そして、虫の音を聞きながら就寝。


翌日、日が完全に顔を出した時間帯に出発し、小休止を挟みながらひたすら道を進む。

日が暮れると同じような場所でもう一泊した。


王都出発から三日目。ついにファリマ侯爵領の関所の砦に到着。

王領と接するこの砦の壁は、王と侯爵の仲を表すように花や天使のレリーフが刻まれている。

そんなレリーフとは対照的な、無機質な鎧を着た兵士が砦の門を守っている。

上にはバリスタが数台設置され、戦いの準備はいつでも出来ているようだ。

この時は教官陣が馬車から出てきて、手続きを済ませる。

無事通行許可をもらい関所の門を通るとき、私兵の人たちから激励をもらった。


「健闘を祈る!!」


「「「ありがとうございます!!」」」


訓練生全員が礼を言って門を通り過ぎる。


しばらくのどかな風景が続き、左側の森林から聞こえる鳥のさえずりが聞こえ、

右側には大きな池というより小さな湖があり、間隔の開いた木々の間から鹿が現れ、湖に顔を突っ込んでいるのが見えた。

木々の向こうはまた森林が続いていて、薄暗くなっている。


そうして風景を楽しんでいると昼過ぎ頃、遠くに物々しい黒っぽい塊が見えてきた。

少しづつ近づいていくとそれが都市の防壁であることが分かった。


「あれがきっとファルマドゥーカね」


「ああ、それっぽいな」


シエラとひと言ふた言交わし、そのまま進んでいく。


ようやく、大草原に接する侯爵領唯一の要塞都市、ファルマドゥーカに到着。

王都並みの堅牢さを持つであろう外壁は、王都とは違い質実剛健な印象を与える黒灰色の石造りだ。

当然土魔法で建設されたのだろうが、壁面がゴツゴツとしているのはわざとだろうか。

関所と同じように教官と駐屯兵との検問や手続きを終えて縦に伸びたアーチ型の巨大な門を、互いに敬礼をして、通過する。


街へ入ると、賑やかな声が響き、人々の笑顔が間に入ってくる。

街全体の色彩が少し物足りなく感じるが、通りは縦横きっちり垂直に交差していて、整然とした印象を与える。

特筆すべき点は、道行く男性のほとんどが、筋骨隆々なことだ。

一見すると物腰柔らかそうな優男も、よく見ると逞しい腕をしている。

魔物が生まれる大自然の隣で暮らすには、やはり腕っぷしは必需品のようだ。

 

しばらく街を眺めていると、左の通りの向こうから黒い高級そうな馬車がこちらにやってきた。

教官たちが馬車から降りてその馬車を迎えるように前に出ると、オレたちもそれに倣って馬から降りる。

馬車から出てきたのは、穏やかそうな紳士然とした、これまた筋骨隆々の初老の男性だった。



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