第30話 ルーカス対テレーズ
空気が冷え始める季節。訓練生が心技体を鍛える朝の訓練場。
その中央にオレとテレーズは居た。近接戦闘の訓練だ。
この数か月でオレは相当に強くなった。もちろんテレーズも、他の仲間たちも。
「予定通り、今日は君たちに試合をしてもらう」
ジルス教官が言った。
遂に来たテレーズとの試合、胸が高鳴る。
相手にとって不足なし、今のオレの実力を試すにはぴったりの相手だ。
シエラが負けた日から、どうすれば勝てるのかを考えてきた結果がここで出る。
準備運動をして防具を身に着け、魔力を練る。
今日は氷魔法の仲間たちも、セレーネ教官も見ている。無様は許されない。
「じゃあ、互いに向き合って。ルールはどちらかが戦闘不能になるまで戦うこと。致命傷になり得る攻撃はオレが止める」
ジルス教官の前で向き合い一言だけ交わす。
「ルーカスは私には勝てない」
「そのまま返すぜ」
今日だけは敵同士、敵意のままに睨みあう。
背を向け開始の位置まで歩き、向き合う。彼我の距離は10メートル。
弓を構え合図を待つ。
静寂が舞い、ジルス教官の声が響く。
「はじめ!!」
始めに魔力干渉。
速攻でテレーズの周囲の地面を凍結させる。が、回避され雷を纏ったテレーズが走り出す。
同時に背後に魔力感知。雷撃が来る。
即座に雷撃発生点との間に氷壁を生成、次いで奴の進行方向広範囲に無数の小氷槍を同時発動。
テレーズはジグザグに回避しながら複数の雷撃をオレの周囲に発動する。
全力で地を蹴って飛び退き、氷壁を広範囲に生成、互いに姿が見えなくなった。
どこから攻められても対応できるようにさらに後退し、自身の周囲の地面を広域凍結させておく。
氷矢を生成し、番えて待つ。
氷壁の向こうから電撃音がした瞬間、紫の影が上から飛来した。即座に矢を放ちもう一本生成し。さらに魔法の発動準備をする。
一本目の矢を弾き、凍結した地面に気付いたテレーズは、地に剣を突き刺し着地。
同時に雷撃を複数発動してきた。
二本目を放ち、氷壁を生成して雷撃を防ぐ。そして新たにエーテルを支配する。
奴は二本目の矢も回避しながら割れた地を蹴って跳躍、凍結したエリアから脱出する。
オレは奴の着地点を予想し氷槍の発動準備をし三本目の氷矢を引く。
同時にテレーズの体に強い紫雷が流れた。
大地を打ち現れた巨大な氷槍と同時に放った氷の矢は間違いなくテレーズへの直撃の線を描いていた。
―――超加速
テレーズはギリギリで氷槍を躱し矢を弾き、氷槍を蹴ってこちらに襲い掛かる。
疾い。
弓を捨て出来るだけ低温の氷剣を左手に、氷盾を右手に生成。迎え撃つ。
雷剣の鋭い刺突を氷盾で弾き、氷剣の袈裟斬り。
テレーズはそれを躱し、背後に回り込む。
振り返り氷盾を構えるも、間に合わず右の脹脛を斬られる。痛みと熱に顔がゆがむ。
ほぼ同時に氷剣の刺突を見舞うが、直ぐに離脱した奴の右腕を掠っただけだった。
テレーズは一瞬で態勢を整え、突貫してくる。
即座に氷槍を発動し妨害。回避した所に更に剣を投擲してテレーズを後退させ、盾はそのままに弓を拾い構える。
そこから雷撃を氷壁で防ぎ、氷槍と氷矢で攻めるも回避され続ける。だが相手も攻めあぐねているのは同じで、拮抗した状態が続く。
接近戦は絶対的に不利、距離を保ちたい。
そして、何本目かの氷槍を回避したテレーズが捨て身で突っ込んできた。
支配している魔力をすべて消費する。
オレの眼前からテレーズの後方まで縦平行に氷壁を生成し直線の道を造る。
そして奴の背後に氷槍を連続で発動。
最後に空いた前方から、奴の眉間に狙いを定め氷矢を構える。
構わず突っ込んでくるテレーズとの最後の一騎打ち。
直後に背後に現れた雷撃は、もう防げない。
矢を放つと同時、雷撃がオレを襲う。
――轟音
・・・だが衝撃がない。
前を見ると、矢を弾きテレーズを抱えるジルス教官、振り返ると氷壁が。どうやらセレーネ教官が防いでくれたようだ。
テレーズを降ろすと、ジルス教官が一言。
「この試合、引き分け!!」
*
「なかなか見応えのある試合だったわね。どちらも全力を出し切った証拠よ」
セレーネ教官の言葉に軽く頷くジルス教官は、表情にわずかな困惑を浮かべている。
「引き分けとはな・・・どちらかが勝つと思っていたが。まあ、どちらも次の成長が楽しみになる結果だ」
シエラはやや興奮気味に労ってくれた。
「ルーカス、テレーズ、お疲れ様!本当にすごい戦いだった!」
「ここまで追い込まれるとは思わなかった。正直悔しい」
オレも笑みを浮かべつつ返す。
「オレも必死だった。近づかれたら終わるってな」
二人の間に言葉では表現できない空気感を感じ取りながら同時に笑顔を見せ、握手をした。
「さ!休憩しましょ!」
シエラの言葉に他の仲間たちも賛同し、和やかな雰囲気に包まれた。




