第25話 特異な点
テトの街を離れ、王都に向かう馬車の中。
車輪が石畳を離れ、土の道を進み始めると振動が少し軽くなった。外を見やると、穏やかな穀倉地帯が広がり、麦畑が黄金色に輝きながら風に揺れている。遠くには小川が流れ、水車小屋の水車がゆっくりと回転している。
昨日オレは不思議な夢を見た。
重い鎧を纏って、角の生えた馬に乗り空を駆けている夢。
オレにそんなメルヘンな趣味はないはずだが、妙にリアリティがあった。
鎧にしてもフィルバラード騎士団のデザインじゃなかった。気にはなるが、夢は夢。
仲間たちの会話に加わって、忘れてしまうことにした。
走ること数時間。馬車は緩やかな坂を登り、王都フィルバラードの巨大な城壁が視界に入った。城壁は白亜の石で築かれ、その圧倒的な高さと堅牢さは、見る者に敬意と安心感を与える。壁の上には巡回する衛兵たちの姿が小さく見え、都市の防衛力が一目でわかる。
「改めて見ると、圧倒されますね・・・」
ライラが思わず声を漏らした。
馬車が進むにつれ、巨大な大門が視界に近づいてくる。大門の両側には騎士たちが整列しており、通行人や馬車を厳しく監視していた。門の上には王家の紋章が刻まれており、真新しい日差しを受けて輝いている。
衛兵たちはオレたち一行を見ると、遠くから敬礼をしてくれた。
そのままコンラッド教官が騎乗する馬を先頭に大門を潜り抜けた。門を越えた瞬間、街の喧騒と活気が一気に飛び込んできた。
華やかな商店や屋台が軒を連ね、人々の話し声や商人の呼び声が絶え間なく響いていた。貴族の装いをした人々から、荷物を担ぐ労働者まで、様々な人種と階層が混ざり合う様子はテトの街とは全く異なる賑わいを見せていた。
やがて馬車は王城の近くまで到達した。王城も白亜の大理石で造られており周囲の建造物とは一線を画す荘厳な佇まいをしていた。城の東側に設けられた訓練場への道は、一般の通行人から隔離され整備されている。
訓練場の入り口で馬車が止まり、オレたちは順に馬車から降りていく。
訓練場に足を踏み入れると懐かしいフィールドが目に入った。
教官たちの号令で迅速に整列する。
「諸君、都合7日間の遠征ご苦労だった。イレギュラーな事態も含めいい経験になったとも思う。今後は訓練を行いつつ、軽い実戦任務をこなしてもらうこととなるから、より一層気を引き締めて日々を過ごすように。以上解散!!」
解散の号令を受けて、仲間たちと打ち上げの日程について話しながら帰路につこうとしていたオレは、突然名前を呼ばれた。
「ルーカス、少しいいか」
振り返ると、コンラッド教官がこちらを見て手招きしていた。その隣にはセレーネ教官の姿もあった。
もしかしなくてもあの事だろう。
仲間たちに先に帰ってもらうよう話し、オレは教官たちについていった。
訓練場の建物内に入り、講義室とは反対に位置する教官執務室の前で足を止めたコンラッド教官は話し始めた。
「明日の予定について少し変更がある。お前は明日の訓練には参加しない」
「なぜでしょうか」
「心配するな、罰ではない。むしろお前の魔法の質について深く調べるための機会だ」
「調べる……?」
コンラッド教官が続ける。
「お前の氷魔法には、他の訓練生とは違う特異な点がある。それは入団試験の段階で把握してはいたが、偶然などでは説明がつかない。したがって、お前とセレーネ教官の魔力の関係性について魔法師団の協力を得て何が原因なのかを探ることにした」
魔法師団――それは王国中の適性が高い魔法使いが集まり、主に魔法による現象の組み合わせや、濁ったエーテルに関する研究を担う組織だ。
「そういうことだから、明日は私とコンラッド教官と同行してもらうわ」
セレーネ教官が穏やかに続けた。
「明日は早朝にここを出発するから、準備をしておいてくれ」
「わかりました」
教官たちと別れ、訓練場を後にする。
夕闇の帰り道を一人で歩くのはさみしいものがあるな。
何が待っているかはわからないが、自分の可能性を探るための一歩だと考えればむしろいい機会だ。
ただ一つだけ残念なのは、セレーネ教官と二人きりじゃないことだ。
明朝、いつもの訓練より早い時間に起きたオレは、既にパンを焼き始めていた父さんに「いってきます」と声をかけ店兼実家を出る。
上を見上げると、朝焼けの空がピンク色に染まって日が昇る最中だった。
フィルバラード王国は大陸の北方にあるから、年中通して朝方は寒い。
手に息を吐きかけながら訓練場への道を進んだ。




