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氷魔法の弓騎士 ~パン屋の息子は騎士になる~  作者: もっちゃれら
第一章 訓練生編
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第19話 光と熱

夜が更け訓練生たちが寝静まった頃、森の方から気配を消して近づく人馬の影。

今回の訓練を実施するにあたって、先行して現地を偵察していた氷魔法部隊の男だ。

彼は馬から飛び降りると、小走りでコンラッドの元へ向かい何かを報告する。

その声は慎重だった。


「再調査の結果、狒々鬼が複数体確認されました。濁りの影響で群れのサルが変異を起こしたものと思われます。これまでの周囲の生物への影響を鑑みると、早急に駆除する必要があるかと」


その報告に教官たちの表情が険しくなる。コンラッドはしばし考えた後、命令を下す。


「平原に陣形を組み、森の林縁部を広範囲爆破する。後に弱い魔獣を残して討ち漏らしを掃討し、弱い魔獣を訓練生たちに狩らせる。それまでは訓練生は後方で待機、見学させる」



翌朝。

いつもは聞こえる朝の鐘も徐々に増えていく人の声も聞こえず、代わりに教官の「起床」の小声とテントの布が擦れる音で目が覚める。

まだ朝靄が周囲に漂っている時間帯、ずっと遠くにそびえる山々の向こうの空が明るくなっていく中オレたちは静かにテントから出た。

班ごとに昨夜と全く同じ朝食を取り、身支度を整え訓練生用の革と金属プレートを合わせた防具を身に着け、革の頭防具を被る。


昨日までとは違い、教官陣も兜や鉢金を装備している。

セレーネ教官も、いつもは下ろしている艶やかな灰色の髪を簡素なシニヨンにまとめ上げ、銀に薄青いラインが入った半首はつむりを装着している。

今気づいたが教官たちの防具には、プレートアーマーにしろ軽鎧にしろ属性ごとに色のラインが入っている。

火は紅、土は黒、風は薄緑、氷は薄青、雷は紫、水は青緑だ。


「整列!!」


別の教官の声でオレたちはキビキビと動き、列をなしていく。

緩い雰囲気は吹き飛び、教官たちは皆真剣な表情でオレたちを見ている。

笑顔を見せる教官は誰一人としておらず、その空気を察してオレたち訓練生も背筋を伸ばす。


コンラッド教官が正面に立ち、話し始めた。


「単刀直入に話す。狒々鬼が複数体確認された為、森に入るのは取り止めになった。森林の中ほどまでを教官陣が火魔法で爆破し、その後討ち漏らしの雑魚をお前達に狩ってもらう。それまでは後方で教官陣の連携を見学していること。いいな」


そうして朝の集会のようなものが終わると、教官たちの先導で森が始まる草むらの付近まで徒歩で移動した。

馬車と馬車馬は野営地で留守番だ。エルドリッジ教官含む、三人の教官が見張りで残る。

目標地点に到着するとオレたちは後方に待機し、教官たちの陣形が整うのを見守る。


それぞれ横一列に、前からプレートアーマーと兜を装備した重装備の土魔法部隊。

その後ろに馬に乗り待機する氷魔法部隊と、歩兵としての雷魔法の教官を含めた近接戦闘部隊。氷魔法部隊はやや軽装備、近接戦闘部隊は軽装備だ。

その後ろに火魔法部隊、最後列に風魔法部隊だ。火と風の2部隊は鎧や兜を装着してはいるが、プレートの面積や厚さを減らした中装備となっている。

そしてその後ろにコンラッド教官が指揮官として中装備で1人立っている。


「これより、【狩りの森】林縁部における狒々鬼等、魔獣の掃討作戦を開始する!」

「「「了解!!」」」

コンラッド教官の宣言により空気が一変し、各部隊の呼吸が一瞬で揃った気がした。


「風魔法部隊、魔力干渉開始!!」

「了解!魔力干渉開始します!」

風魔法の女性教官たちが、笛のような力強く響く高音を発し男性教官たちは地響きのような重低音を発する。

高音の方が瞬時に魔力干渉が出来、低温の方が魔力を遠くまで届けられるらしい。


「エーテルの支配を完了しました!」

「よし、火魔法部隊へエーテルを五割、土魔法部隊へ二割均等分配せよ!」

「了解!分配します!」


「・・・火魔法部隊、エーテルを受領しました!」

「よし、熱源生成を開始せよ!」

「了解。火魔法部隊、熱源生成を開始します!」


「・・・土魔法部隊、エーテルを受領しました!」

「よし、横二十メートル、高さ五メートルの防壁を正面へ生成せよ!」

「了解。土魔法部隊、防壁の生成を開始します!」


一見動いていないように見えるが、火魔法部隊が魔力を森の奥の方に集めているのだろう。

そして、土や岩だったとは思えないほど滑らかな面をした巨大な黒い壁を土魔法部隊が瞬時に生成し、森が見えなくなった。


矢継ぎ早に交わされる、緻密で迅速な指揮と行動。

これが本当のチームワークか・・・。


「風魔法部隊、氷魔法部隊と近接部隊へエーテルを一割均等分配、残りエーテルを使い風向きを森林中心方面へコントロール」

「了解。氷魔法部隊と近接部隊へエーテルを一割均等分配、残りエーテルを使い風向きを森林中心方面へコントロール!」

「氷魔法部隊・近接部隊、エーテルを受領しました!」

「よし、次の指示まで待機せよ!」


「火魔法部隊、熱源準備完了!いつでもいけます!」

「土魔法部隊、防風壁準備完了。こちらもOKです!」

「風魔法部隊、制空権内コントロール完了!」


「よし、揃ったな・・・」


全ての準備が整った。オレ達は、呼吸を忘れてそれを見守る。

ゴクリと、誰かが生唾を飲んだ音が聞こえた。


そして・・・


「熱源解放準備!・・・解放!!」


「「解放!!」」



 ―――刹那の静寂が破れ、空を打ち崩すような轟音が響く。眼前の景色が一瞬にして白く染まり、炸裂音と共に巨大な火球が湧き上がった。衝撃波が四方八方へと飛び散り、地面が震え、空気が灼熱に包まれた。

光と熱が空を飲み込んでいく中、オレ達だけが堅牢無比な黒壁(コクヘキ)に守られていた。


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