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氷魔法の弓騎士 ~パン屋の息子は騎士になる~  作者: もっちゃれら
第一章 訓練生編
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第17話 出発

 

一週間後。

オレたちは王都の大通りを、幌馬車の中から眺めていた。


研修生六十三名と教官陣三十名からなる大所帯。馬車は七台で先頭馬車は教官たちが十人乗る。


まるでキャラバンだ。


オレは二番目の馬車に乗っている。乗車メンバーは自由に組めたので、トーマス・エレナ・ユーゴ・ライラ・ロイ・シエラ・ヴィンセントの七名と一緒だ。


そして、教官たちが取る護衛陣形は馬車の列を囲むように先頭二名、左列七名、右列七名、最後尾四名。全員が騎乗している。


かっこいいなぁ・・・。ああ、騎馬訓練が待ち遠しい。


通りの脇には出店が並び、果物や花、肉や魚が売られていて、脇道の奥にある広場ではどこかのお婆さんが紙芝居を子供たちに披露している。

民家の二階に干されてる色とりどりの洗濯物が、青空と共に空間に彩を添えている。

さすが王都。どこを見ても活気に溢れている。

ここに生まれることが出来たオレは、すごく恵まれているんじゃないだろうか。

別の脇道の少し先にオレの実家が見える。

ちょっと前までは、ここを通る騎士たちを眺めていた。


「お、あれがルーカスの実家か?」


「ん?ああ」


「帰ってきたらパン焼いてくれよ」


トーマスのこの一言で皆が口々に喋り始めた。


「良いわね!せっかくならみんなで打ち上げしない?」


「それ賛成です!」


「良いね、オレも賛成」


「僕も参加させてもらおうかな」


「ならば、オレの屋敷でやるのはどうだ?」


「良いわね!侯爵様の王都屋敷、楽しみだわ」


シエラがさらっとすごいことを言うので、トーマスとオレはスルー出来なかった。


「侯爵ぅ!?」


「貴族と知ってはいたが・・・お前の家、すごかったんだな」


「次男だから、家督は継げないけどな。まあ、だから騎士になろうとしているわけだ」


貴族には貴族の大変さがあるらしい。広い家は羨ましいが、庶民ほど気楽に生活が出来ないのも考え物だ。

王城の方から南下して正面の南門、通称『大門』を抜けて堀を渡る。

門の脇で小さな子供たちが騎乗している教官たちを見て眼を輝かせていた。



王都を離れてしばらく。


馬車がガタガタと音を立てながら広大な穀倉地帯を進む。

遠くに小さな村が見え、トーマスが目を細めてそれを見つめていた。

この長閑な風景を眺めていると、コンラッド教官が言っていた魔物の話が本当にどこか別の世界の出来事のように感じる。

そもそも、三日後にはオレ達が魔物と相対するなんてとても実感が湧かない。


変わり映えのない景色が夕日色に染まり、向こうの空が夜を迎え始めた頃、王都の隣街・テトの街に到着した。


馬車を降りると長い影が石畳を包み込み、建物の壁は温かな橙色に輝いている。

遠くにあるどこかの教会の鐘が鳴り響く。街角には賑やかな市場が広がり、果物や花の香りが漂っている。

目の前の民家の窓からは灯りが漏れ出し、街の至るところで人々が家路につき、商人たちは店を閉め始める。


訓練生は、そんな穏やかな街の宿屋に泊まるそうで、教官の一人が案内してくれる。


しばらく歩くと、少しお高そうな雰囲気の宿屋・金の暁亭(きんのあかつきてい)へ到着した。

テトの街には家族と旅行で何度か訪れたことがあるが、この宿屋は泊まったことがない。


教官が入口の扉を開くと、暖かい橙色の明りに歓迎され、続いて食欲をそそる優しい香りが鼻をくすぐる。

キチンと等間隔に並べられた長方形のテーブルたちの上には、

出来立てのホヤホヤのローストチキンやロールキャベツ、クリームシチューに焼きたての食パンなどが所狭しと並べられている。

まるで小さい頃に見ていた、絵本の世界に入り込んだような暖かい空間だった。


「「「わあぁ~!!」」」


女子たちが感動している。

無理もない。幌馬車の容赦ない振動はさすがに堪えるものがあったからな。


「騎士団の皆さま、お待ちしておりました。私、この宿の支配人を務めております、アプールと申します。早速ですが、料理人達が丹精込めておつくりしました料理を、心行くまでお楽しみください。どの料理もおかわりがありますし、食後にはデザートも用意しております」


「「「すてきぃ~!!!」」」


女子たちが感動に打ち震えている。


「ん?シエラはいつもこういう生活を送っているんじゃないのか?」


「何言ってるのよ、辺境泊がこんなご馳走を毎日食べられるわけないじゃない」


ヴィンセントの素朴な疑問にシエラは呆れている。


「庶民のオレたちにとっては願ってもないご馳走だね。さ、あとは食べながら話そう」


ユーゴの号令で皆思い思いの席に着き、手を合わせる。


「「「いただきます!!」」」



幸せな食事を終え、十二分に満たされたオレたちは、それぞれの部屋に入る。

2人一組の部屋で、オレはヴィンセントと同じ部屋だ。


部屋の内装は至ってシンプルなものの、ベッドやカーテンなどの備品が綺麗に手入れされ、洗練された雰囲気を感じる。


「訓練の遠征だってのにやけに豪華だな。まあ良いことなんだけどな」


「明日からは二日間キャンプ生活だからな。教官たちの計らいか、もしくは明日以降をより辛く感じさせる為の布石か、だな。」


「うわ、それありそうだな」


「オレも後者だと思っている」


オレはヴィンセントの推理は間違いなく的中していると感じた。


ならば今日だけはしっかり英気を養っておかないとな。


この後は風呂に入り、明日のためにと早めにベッドに入った。

ふかふかのベッドの中で見る夢は、ひたすらに心地良いものだった。

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