第12話 試合
あれから三か月。
基礎訓練と近接戦闘の技術を叩きこまれた。
属性は関係なく集められ、やっとトーマスやロイ、ユーゴ達と交流が出来た。
男は特に体つきが変わり、もともと背が高かったユーゴはなかなか頼りがいのある雰囲気になっていた。
*
セレーネ教官から、試合を行うことが知らされた。事前に知らされなかったのは、心の準備をさせない為だったらしい。
一対一のトーナメント方式で、互いに魔法を駆使して攻防を交える。
試合のルールは単純で、相手を戦闘不能に追い込むことが勝利の条件だ。
適性の高低は関係なく、低いなら低いなりに工夫して戦えということらしい。
ランダムに組まれた相手と戦う為、同属性でぶつかることもある。
配られた試合用の皮防具を身に着ける。ヘッドギアがきつい。
ふと視線を移すと、明らかに表情が曇ってるやつがいた。
「シエラ、大丈夫か?」
「あ、うん・・・。ちょっと怖いけど」
強気なイメージがあったが、まあ当たり前か。
試合とはいえ、初めての戦いだもんな。
「勝つことより、身を守ることを考えようぜ。氷魔法はそういうの得意だからさ」
「そうね。ありがとう。ちょっと楽になった」
――そしてオレの最初の相手が、同属性の男だ。おそらく適性はオレより低い。
向かい合う彼我の距離は十メートル。
コンラッド教官が審判を務める。
「準備はいいな。では・・・はじめ!!」
合図とほぼ同時に指を鳴らし全力で走り出す。
奴の表情をしっかり捉える。
―――驚いてる暇はないぞ?
疾走しながら刃のついた氷剣を生成する間に、奴は悠長に盾の生成を始める。
受け切れると思ったのか?――
完成間近の大きく薄っぺらい盾を、勢いのまま蹴りでブチ破る。
体当たりのような重い蹴りに、突き飛ばされ転がった背に、剣を叩き込んだ。
「勝負あり!勝者、ルーカス・フール!」
試合の恐怖を打ち消すように突っ込んだ。運よく勝てたがあれは悪手だ。
セレーネ教官が見ている前で無様な姿は見せられない、と気合いが入りすぎたのもあるが。
互いに礼をして試合を終える。
*
次の試合は、ライラと土属性の男だ。
互いに向き合い、ライラは右手にレイピア、左手にラウンドシールドを。男はメイスのみを構えている。
一見ライラの方が不利に見えるが・・・。
「はじめ!」
コンラッド教官の合図で試合が始まった。
一瞬の睨み合いの後、男が地を踏み鳴らし、ライラがレイピアを前に突き出して短く口笛を吹いた。
男は、威嚇ではなく魔力を広げたのだろうが、直後に魔法を発動させないのは作戦か?
そう思った時。
ライラがニヤリと笑った。
「取った」
「くそ!」
男が焦った表情で突進を始める。
距離を詰め、メイスを振りかぶったと同時、ライラが跳び退きレイピアを大きく横に振ると
どこからか突風が現れた。
男は勢いを殺され、なぎ倒され転がる。
が、まだ諦めてはいないようだ。何とか体制を立て直し次は左手で地を叩こうとする。
しかし、下から突風に煽られ仰け反ってしまい、そこにまたもや突風を叩きつけられ吹っ飛ぶ。
支配したエーテルを使い切ったライラはもう一度、短く口笛を吹く。
―――そこからは一方的だった。
男は一度も土魔法を使えぬまま、ひたすら風に揉まれ、しまいには平衡感覚を失い降参した。
「勝者、ライラ・バーティル!!」
男が回復するのを待ち、互いに礼をして試合を終える。
向こうで同じ属性の子と喜び合うライラと、トーマスに慰められている男が対照的だった。
その後の試合も一方的に終わるものが多かった。魔法同士の戦いは初動で有利を取れた方が勝つことが多いみたいだ。
エレナは、ヴィンセントという風属性の男にやられてしまった。
二連の爆発を発動したまではよかったのだが。風魔法と剣技に押し切られたのだ。
ヴィンセントの方も、爆発で顔の左側を火傷し皮膚がただれていたので、ロイがヴィンセントの所へ駆け付け、水魔法で治癒している。
礼をして試合を終えた後、互いに称え合っていた。
トーマスとユーゴはどちらも難なく勝利していた。
ユーゴの適性が低いのは本当らしく、主に、長身を活かし槍を得物にして戦っていた。
所々で小さな火や爆発を織り交ぜながら相手の氷属性を圧倒していた。氷の奴はオレ達の中でも生成が早く、努力していたことを知っているから、ユーゴの勝利を喜びつつも少し複雑な気持ちだ。
そしていよいよシエラの試合。
運の悪いことに、相手は雷属性のあいつだった。
今は、紫の髪を下で結っている。
クールとは少し違う気怠そうな目に、長いまつげ。
細く端正な鼻に、小さな口元。
卵みたいにきれいな輪郭だ。
小さな細身の体は、とても戦闘に向いているようには見えない。
互いに向き合い、構える。
シエラは金属の盾を最初から構えている。
身軽さを捨て、防御と魔力温存を選び、剣は生成するつもりのようだ。
雷の女はテレーズ・テスラというらしい。ショートソードを構えている。
「はじめ!!」
開始の合図と同時、両者が指を鳴らした。