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最終章 約束(3)

 一頻り盛り上がったところで、持参したお菓子が底をつき、ピクニックはお開きとなった。


 手分けをして片付けをしながら、ジークが私に囁く。


「悪くないな。こういうのも」

「そうね。また皆でやりましょう」

「それも良いが、次は二人でだ」


 しれっと言いながら、ジークは優しく微笑む。


「……そうね」


 小さく頷くと、ジークは少々意外そうに眉を上げた。


「素直だな」

「悪い?」

「いや、可愛いから大歓迎だ」


 ジークはふっと笑って、私の腕を掴むと耳元に唇を寄せる。


「でも……そういう顔は二人きりの時だけにしてくれ」


 また真っ赤になる私を面白そうに笑うジーク。

 本当に、この王子には勝てる気がしない。


「あーっ、もう! だから僕の前でイチャイチャするのは止めてくれないかな!」


 ルイスが恨みがまし気に言いながら、わざわざ私達の間を取って馬車に荷物を積み込んでいく。


「はぁー、何で僕だけ一人なんだ。セインにもアーネストにもいい相手が見つかってるって言うのに……」


 ぶつぶつ呟く声が聞こえた。

 アーネストはともかく、セインはどうだろう。ミュナはセインに好意を抱いているが、セインはまるで彼女のそれに気付いていない気がするが。


 ちらりとセインを見てみても、私の視線に気づいた彼はそれだけで恍惚の表情を浮かべている。

 なんというか、ミュナは良いのだろうかとも思うが、下手なことを尋ねても藪蛇になりかねないので、二人のことは黙って見守ることにする。


 と、一連のルイスの呟きを聞いていたらしいオウガが、ルイスの前に立った。


「そんなに恋人が欲しいなら私がなってやるぞ!」


 突然名乗りを上げたオウガに、ルイスが凍り付く。


「……や、遠慮します」

「そう遠慮せずとも良い。ルイス殿は、私の友達であるレリアの義理の弟になる訳だからな!」


 にこにこと迫るオウガに、ルイスは青褪めながら後退る。


 重婚が認められている魔族なら、同性婚も当たり前のように認められているのだろうな、と思った矢先、エヴィがやれやれと肩を竦めた。


「オウガ様、お言葉ではございますが、人間は男女でつがうと聞いております。オウガ様が男の姿である以上、ルイス殿も首を縦には振らないでしょう」

「む? 何だ、そんな事か!」


 オウガは目を瞬くと、パチンと指を鳴らした。


 直後、筋骨隆々の魔族皇帝の姿が消え、艶やかな黒髪と緋色の眼はそのままながら、妖艶な美女が姿を現した。

 胸元ががっつり開いた黒いタイトなドレスは深めのスリットが入っている。

 エロい。とにかくエロい。


「この姿なら問題ないという事だな!」


 はっはっはっと笑うその美女に、ルイスがめをぱちくりとさせながらエヴィを振り返る。


「えっと、変装魔術で変身したって事?」


 尋ねると、エヴィはまるで馬鹿にするかのように失笑して見せた。


「魔族の事を何もご存知ないのですね。魔族はそもそも魔物と人間の血を引く一族。魔物の中には、性別を持たないものも多くあり、それを祖とする一部の魔族もまた、性別を持ちません。それにより、男の姿も女の姿も持つことができます。オウガ様もその一人であり、どちらが本性という事もなく、どちらもオウガ様のお姿です。ただ、魔族皇帝というお立場である以上、男の姿の方が色々と都合が良いので、基本的にはそちらのお姿でいるよう、私から進言していたという次第です。あ、ちなみに女のお姿の場合のお洋服は私が選びました」


 えー、絶対そんなのゲームの公式にはない設定でしょ。

 オウガ推しだと言っていた本物のレリアからはそんな話聞いていない。

 オウガが女にもなれるなんて重要情報、いくら何でも知っていたら教えてくれただろう。


「……まぁ、ルイス、お前が良いと言うなら俺は止めないが……相手はディモニウム帝国の皇帝だからな。よく考えろよ……」


 ジークが何とも言えない顔でルイスの肩を叩く。

 ルイスは神妙な面持ちで頷いた。


「わかっている……さっきまであんな厳つい男だったんだし……で、でも……」


 ちらり、とオウガを見る。服装まで変わっている今のオウガは、どこからどう見ても色香漂う大人の美女である。


「……どうしよう、見た目は物凄くタイプ……」


 両手で顔を覆ったルイスに、私とジークは思わず顔を見合わせた。


 そうか、ルイスはわかりやすいお色気系のお姉様が好きだったのか。そりゃあ元々の婚約者候補達の中からすぐには決まらなかったはずだ。十代の貴族令嬢でそんな色香を漂わせている者はいない。


「……ルイス、大丈夫かしら……」

「魔族皇帝の裏の顔があれだとは、流石に予想外だったな」

「本当にオウガと結婚しちゃったりして」

「それはそれで……その場合はルイスが婿養子に出ることになるだろうし、色々対応が必要になりそうだが、まぁ、本人がそれを望むのなら仕方ないんじゃないか……?」


 私とジークがひそひそと話す声は、もうルイスに届いていない。

 どうやら、本当に女の姿のオウガに一目惚れしてしまったらしい。


「ただ……もしもルイスが婿養子になるとしたら、流石に俺は王位を継がざるを得なくなる。お前のためなら王位を棄てる覚悟だったが……」


 ジークが何を言おうとしているのか察して、私は彼の唇に人差し指を当てた。


「大丈夫だよ。私、覚悟を決めたから」

「……レリア?」

「ジークと一緒なら、面倒な社交界にも飛び込むし、王妃教育だって頑張る……だって、ジークは国王になるためにこれまで頑張ってきたんでしょう? その頑張りを無駄にしてほしくないから」


 天才肌であっても、ジークが努力をしてきたのは事実だ。

 それを私のために投げ打って欲しい訳じゃない。


 そう告げると、ジークは一瞬驚いたような顔をして、それから周りを憚らず私を力強く抱き締めた。


「っ! ジーク?」

「……あー、本当、レリアには一生敵わないな……」


 そう呟いて腕を緩めた彼に、私は思わず唇を尖らせる。


「えー? 私こそジークにやられっ放しなのに……」

「そうか? それは良かった」


 ふっと笑って、ジークは私の両手をぎゅっと握る。


「お前が覚悟を決めてくれた以上、俺はお前を幸せにすると約束する。絶対だ」

「……うん。ありがとう」


 その手を握り返したところで、サーシャに呼ばれて振り返る。

 いつの間にか、私とジーク以外の皆が馬車に乗り込んでいた。オウガが用意してくれた、魔物が引く特大の馬車だ。


 皆の視線が痛い。そして恥ずかしい。

 

「行くか」


 苦笑したジークに手を引かれ、私も微苦笑を浮かべて歩き出した。


 もう迷わない。

 そう決めた私の心は、あの旅に出た日の空のように、晴れ渡っていた。

これにて続編完結です。ここまでお付き合いくださりありがとうございました。


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