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【コミカライズ決定】悪役令嬢に転生したら正体がまさかの殺し屋でした  作者: 結月 香
2部 旅立ち

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第八章 告白(2)

 部屋の扉を開けた瞬間、ジークの目の前に怒り狂った顔のクラッドが飛んできた。 


「殿下! 貴方って人は! いつも勝手に動き回って! 毎回尻拭いをする僕の立場にもなってくださいよ!」


 ジークの側近であるクラッドは、今回の旅には不参加、というより完全に置いてけぼりにされていた。

 多分だけど、第一王子の側近でありながら彼の家出を止められなかった事、何かしら国王陛下からお咎めを受けたのではないだろうか。


 私が同情しつつクラッドをどう宥めようかと思案していると、私の存在に気付いた彼が、ぎょっとした様子で足を引いた。


「レリア嬢……! で、殿下、貴方って人は……! いくらレリア嬢が自分に興味を示さないからと言って、家出までしてつけ回した挙句、無理矢理部屋に連れ込むなんて、見損ないましたよ……!」


 うん? なんか、完全に誤解してない?


 クラッドって確か凄く真面目なキャラなはずなんだけど、真面目過ぎてちょっと天然なのかもしれない。


「おい! お前は俺を何だと思っているんだ! 出先から転移魔術で城に戻るのに、自分の部屋を座標にしただけだ! それに、レリアが俺に興味を示さないなんて決めつけるなよ! 失礼だな!」


 ジークが反射的に言い返すと、クラッドは私とジークを見比べた。


「……レリア嬢、本当にジーク王子殿下で良いのですか?」

「……何か含みのある言い方だけど、どういう意味か聞いてもいいかしら?」


 私が聞き返すと、クラッドはジークを一瞥してから答えた。


「殿下は、次期国王としてはとても優秀で、天才肌で魔術師としての腕も剣の腕も一流、長身な上に顔も美形と見た目も完璧ですが……しかし性格には難しかない事故物件のようなお方ですよ?」


 あー、クラッドの言いたい事がわかったわ。


 彼は優秀な側近だ。彼の手腕については貴族間でも高い評価をされている。そんな彼が、裏ではジークには振り回されっ放しで生きてきたのだ。

 それも、一年やそこいらの期間ではない。ゲームの設定ではクラッドはジークが十歳になった頃に、側近として付けられているってなっていたはず。おそらく、ずっとジークの勝手な振る舞いに悩まされてきたんだろう。

 それについては心の底から同情に値する。


「おい」


 ジークが不満そうな声を漏らすが、私はクラッドに向かって微笑んだ。


「心配してくれてありがとう、クラッド。今までジークの横暴に耐えて来た貴方だからこその忠告よね」

「レリア嬢……」


 私が理解を示した事で、クラッドは感涙した。


「大丈夫。私がジークを好きなのは本当だし、これからはクラッドに迷惑を掛けないように、よく言って聞かせるから!」


 ね、と念を押すと、クラッドは私に向かってくの字に身体を折り曲げた。


「レリア嬢! いえ、レリア様! 不肖クラッド・アインザルク! 一生貴方様に付いていきます!」

「お前の主は俺だろうが」


 間髪入れずにクラッドに凄むジークだが、二人のやり取りは何処までが冗談で何処から本気なのかイマイチわからない。

 基本的には仲が良いのだろうな。


「レリア様が殿下の求婚を受けられたのでしたら、未来の王太子妃、更にゆくゆくは王妃殿下となる訳ですから、私がレリア様にもお仕えするのは時間の問題です」


 鼻息荒く力説するクラッドに、攻略キャラ以外でもゲームの設定と異なっていたのかと、妙に感心してしまった。

 ゲーム内でクラッドが登場するシーンは数少なかったが、少なくともジークに対してこんな口調で言い返す性格ではないと思っていた。


「……まぁ、レリアの事を主人と認めるのは良い事か……お前の人を見る眼は確かだしな」


 ジークがまだ若干不満そうにしつつもそう言って嘆息した。


「そうなの?」

「ああ。善人か悪人かがわかるらしい。直感らしいが、以前からベルフェール公爵とミルマを信用ならないと言っていたし、当たると思うぞ」


 それは確かに凄いな。

 脇役キャラなのに、そんな特殊能力を持っているとは。


 だがそうなると、彼から私がどう見られたのか気になる所ではある。

 だが、藪蛇になりかねないので黙っておこう。


「……ああ、そうだ、クラッド、急で悪いが父上を呼んでくれ。大至急報告しなければならない事があるんだ」


 ジークの言葉に、クラッドは怪訝そうな顔をしたが、主の顔色から本当に重要な要件なのだと察したようで、すぐに一礼して下がっていった。


「行こう。すぐにクラッドが父上に取り次いでくれる」


 促すジークに従って歩き出しながら、自分の父親に会うにもワンクッション入れないといけないなんて、王族は大変だな、とぼんやりと考える。

 これが彼の今まで生きてきた世界であり、これから私が飛び込む場所でもあるのだけど。


 大丈夫かな。

 自分が王族に嫁入りするという状況が、今の時点でさえ微塵も想像できない。


 ジークの事を好きな気持ちに嘘はない。

 だけど、王族の仲間入り、ましてや王太子妃になる覚悟などまだできていない。


 こうなったらジークに王位を棄ててもらって、と一瞬過るが、ジークが心からそれを望んでいる訳ではない事を思い出して頭を振る。


 ジークは幼い頃から、次期国王としての誇りを持って生きて来たのだ。

 私のためにそれらをすべて投げ打っても良いと言ってくれた事は嬉しかったけど、それを言うなら私はジークに、私のために無理はしてほしくないと思っている。


 ジークの隣に立つためなら、多少の苦行くらいは甘んじて受けよう。

 しがらみしかない場所に飛び込むのだとしても、好きな人と一緒なら、きっと頑張れる。


 そこに思い至り、なんだかすとんと腹に落ちた気がして、私は自分の足取りが軽くなったのを感じた。 

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