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第八章 告白(1)

 薄暗く、僅かな夕日が差し込む、ジークの部屋。


 服越しでも伝わる体温。ジークの匂い。

 突然の抱擁に、心臓が早鐘を打ち始める。


「じ、ジーク?」


 こんなことしている場合ではない。

 早く証拠を提出して、皆が待つディモニウム帝国に戻らないと。


 そう言いたいのに、言葉が出なくなる。


「……好きだ」


 抱き締められながら囁かれ、更に鼓動が跳ねる。


「っ!」

「お前を目の前で攫われて、挙句あの野郎と手を取り合っている場を見て、ちゃんと手に入れなかったことを本当に後悔した……だから、もう待たない」


 一度腕を緩め、ジークは私を真正面から見た。


 真剣な深紅の瞳に射抜かれて、息ができなくなる。


「俺はレリアを愛している。どうか俺を選んでほしい」


 ジークの気持ちが、素直に嬉しい。


 魔物に襲われてジークが死にかけた時、私も後悔した。

 気が付かないふりをせず、ちゃんと気持ちを伝えておけば良かったと。

 絶対に、ジークを失いたくないと。


 天才肌で自信家で、まっすぐなジーク。

 いつの間にか、私の心はすっかり彼に奪われてしまっていた。


「私も……私も、ジークが好き」


 自然と、涙が溢れてくる。


「王太子妃になる覚悟なんてまだできてないけど……でも、ジークとずっと一緒に、生きていきたい……っ」


 正直な気持ちを告げ終わる直前、ジークは私の唇を自分のそれで塞いだ。


「……嬉しすぎて理性が飛びそうだ」


 額をこつんとぶつけて、ジークは僅かに苦笑する。


 しまった。ここは彼の私室。こちらは居間だが一つ向こうの部屋は寝室だ。

 男の部屋に軽々しく入ってはいけないというのは、前世も現世も変わらない乙女の常識だというのに。


 どうしよう、と固まりながらジークを見上げると、彼は私の額に軽くキスを落とす。


「流石に今はそれどころじゃないからな。これで我慢する」


 思考を読まれた気がして、顔から火が出そうだ。

 

「……馬鹿」


 誤魔化す方法がわからず両手で頬を抑えながら絞り出して睨むと、ジークは片手で自分の目元を覆って唸った。


「……お前、俺の理性を試しているのか?」


 指の隙間から睨むように凄まれ、意味がわからず、私は目を瞬く。


「えっ、何が?」


 本気で聞き返したが、ジークは深々と溜め息を吐くだけだ。


「……そんな可愛い顔、絶対俺以外の誰にも見せるなよ」


 なんか誤魔化された気がする。

 悔し紛れに、私はずっと気になっていたことを尋ねることにした。


「……ねぇジークって、私のどこが好きなの?」


 出逢いは最悪だったはずだ。

 舞踏会の夜、城の中庭で出逢い、彼は私に背後からナイフで襲われているのだから。


「面白いところだ」


 即答するジーク。

 え、そこは普通、可愛いところとか、全部とか言って惚気るところじゃないの?


「侯爵令嬢のくせに、俺の命を狙ってくるし、社交界は面倒呼ばわり、町の食堂ではチキンステーキを喜んで食べる……当たり前だが、レリアのような女は初めてだ。俺の隣を歩くのは、お前しかいないって思った……あと、顔も普通に可愛い」

「何か全体的に馬鹿にしてない?」

「そんな訳ないだろう。お前は俺の唯一無二だ」


 けろっとそんなことを言うのもずるい。


 と、ジークは急に真面目な顔になって話し始めた。


「……第一王子として生まれ、その責任を全うするためだけに生きてきた俺にとって、これまでの人生はどこか退屈だった。それはこれからの人生も変わらないと思ていた……でも、レリアが現れて全てが変わった」


 初めて聞くジークの本音。

 彼は、愛おしそうに私の頬に触れる。

 

「確かに最初は興味本位だった。俺の命を狙う女が隣にいたら、退屈しないんじゃないか、くらいの軽い考えで婚約者候補にしようと思った……でも、くるくる変わる表情や、美味そうに飯を食べる姿を見て、本気で好きになるのに時間はかからなかった」

「……ジーク」

「絶対に惚れさせると思うと同時に、絶対に誰にも渡したくなくなった……前にも言ったが、俺はお前か王位か、どちらかを選べと言われれば迷わずにお前を選ぶ。どうしても王妃になりたくなければ、無理をする必要もない」


 好きな人ににここまで言われて、もう心臓が爆発しそうだ。

 言葉を返せないでいると、ジークは少しだけ苦笑した。


「俺はお前の願いは何でも叶えてやりたいと思ってるんだ。俺から離れること以外で、だけどな」

「離れないよ。もう、離れない」


 私の頬に触れている彼の手に自分の手を重ねて、私は微笑んだ。


「っ! ああもう……っ!」


 ジークはそのまま私の反対の頬にも手をやり、ぐいと上を向かせて唇を落とした。

 噛みつくようなキスに、思わず固まる。


 前世でも今でも恋愛経験ゼロの私には刺激が強すぎる。


「お前はっ! 俺がこんなに我慢しているのに、あんまり可愛いこと言うなよ!」


 自分から私に触れてきたくせに、ジークは頬を紅くして、私の手を掴むとずんずんと部屋の出口に向かった。


「……さっさと父上に報告するぞ。俺とお前の正式婚約も含めて」

「えっ! もう話すのっ?」

「当たり前だろう? もう絶対に離さないから、覚悟しろよ」


 ジークは不敵に笑う。


 どうやら私は、彼のこういう自信に満ちた笑顔に弱いらしい。


 返す言葉に迷っていると、部屋を出る直前、ジークはふと思い出したように私を振り返った。


「……なぁ、レリア」

「うん? 何?」

「お前、本当にアイツとは何もなかったのか?」

「何もないよ! 何でっ?」


 疑うようなジークの眼差しに、思わず反論してしまうが、かえって怪しまれてしまう。


「お前のアイツを見る目が……何て言うか、他の誰に向けるものとも違うっつーか……」


 それを言われると言葉に詰まる。鋭い。


 オウガのことは正直好みでも何でもないが、前世の推し声優の声を生で聞き、しかもその声で少なからず口説き文句を言われているのだから、どうにも反応してしまうのだ。


 しかしそれを説明しないでいては、ジークに妙な誤解をされたままになってしまう。


「……こ、声が……」

「声?」

「オウガの声が、凄く好きな声の種類なのっ! それだけ!」


 自棄やけになって言い捨てる。

 すると、ジークはムッとした様子で私の腕を少し強く掴んだ。


「じゃあ、俺の声は?」


 ずいと詰め寄る。

 うぅ、その整った顔が、無駄に眩しい。


 惚れた弱みだな。元々はディアスの顔が好きだったはずなのに、今ではジークのこの強気な顔立ちが格好良く見えて仕方がない。


「……ジークの声だって、好きだよ」


 少なくとも、元々登場キャラの中ではディアスと並んで二番目に好きな声優だったのだ。

 まぁ、それはこの場では口にしないでおくけれど。


 と、私の答えに満足したのか、ジークはふっと笑って私の耳元に唇を寄せた。


「そうだよな。レリアは俺が好きなんだもんな」


 耳元で囁かれる、低く落ち着いたそして僅かに掠れた声。

 声までイケメンなのはずる過ぎる。

 結局、オウガの声なんてどうでもよくなってしまうのだから、自分でもちょろいと思う。


 真っ赤になって耳を押さえる私を楽しそうに見て、ジークは部屋の扉を開けた。

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