第二章 転機(2)
結婚しろと言ったのか、この男は。命を狙ったこの私に。
呆然とする私にジーク王子は意地悪な笑みを浮かべる。
「拒否すればお前は王族暗殺未遂罪で死刑確定だ。だがもし承諾すれば、今回の罪は見逃してやる」
その言葉に、私の心は揺れた。
不真面目で女好きと噂されるジーク王子の妃になるだなんて正直真っ平ごめんだが、承諾することで今回の暗殺未遂を見逃してもらえるのなら、メルクリア家が爵位を剥奪されることもなくなるのではないか。
しかも、私が暗殺に失敗したことで、もしかしたら兄ディアスが代わりに遂行してくれるかもしれない。
正式に結婚する前にジーク王子が暗殺されれば、私との結婚も白紙になる。
そこまで考えが至って、はっとする。
人の死を願うような考えが過った自分に驚き、失望した。
私は、そんな人間ではないはずなのに。
侯爵令嬢レリアとして生きてきた人格と、前世の記憶にある人格とがズレている。私は私なのに、妙な感覚だ。
いずれにしても、今の私は、他人が私のせいで死ぬのは嫌だと思っている。
今し方王子を刺殺しようとした人間の言葉ではないことは百も承知だが、この矛盾した気持ちは事実だ。
そして、二つの人格をしっかり制御できるようにならなければならないという課題に気付く。
そうでなければ、先程のようにレリアの人格が暴走して誰かを傷付けかねない。
ぐるぐる回る思考に黙り込んだ私の顔を、ジーク王子はにやにやと勝ち誇ったような笑みを浮かべて覗き込んでくる。
「……どうだ? 受けるか?」
自分が求婚すれば相手は喜んで承諾するとでも思っているのか、はたまた死刑をちらつかせれば言いなりにできると思っているのか、自信満々な態度に苛立ちを覚えた。
傲岸不遜な男も、脅して結婚を迫ってくるような男も、絶対に願い下げだ。
だが、求婚を断れば私は暗殺未遂罪で死刑確定。メルクリア家の爵位剥奪も免れないだろう。
そうなれば、ベルフェール公爵も黙ってはいないはず。
いや待てよ。
メルクリア家の爵位が剥奪されたとしても、メルクリア家の人間の口からベルフェール公爵の名前が出ることはまずない。
表向きは、メルクリア家とベルフェール家は社交界で顔を合わせる以外で深い繋がりはないことになっている。
公爵とて、爵位を剥奪された父や兄に余計なことをして、メルクリア家との繋がりを察知されるようなことは避けたいはずだ。
つまり、私一人が死刑になることで、父や兄の命は守れるのではないだろうか。
寧ろ、私が王子妃になってしまった場合、ルイス王子を国王に擁立したいベルフェール公爵の怒りを買うことになりかねない気がする。
そもそも、先程暗殺に失敗した時点で、一度は死刑を覚悟しているのだ。
それならば、と私は意を決した私は、真正面から王子を睨みつけた。
求婚を断ったら暗殺未遂の罪でどうせ死刑確定になる。それならば、今ここで言いたい放題言ってやる。
私は大きく息を吸い込んだ。