第十三章 決着(4)
「ああ……メルクリアは長いこと権力に屈していたんだな。気付いてやれなくて、王族として申し訳なく思う」
「え?」
思っていたリアクションと異なり、私が首を傾げると、王子は眉を下げる。
「もっと早く王族が気付き、両家の関係を断ち切れていたら、お前も幼少期から辛い訓練なんて受けずに済んでいたのに……」
「……あの、じゃあ、メルクリア家の罪は?」
「全てはベルフェールの責任だ。メルクリア侯爵家には、これまで受けた依頼について全て話すことと、今後暗殺家業から足を洗うことを条件に、これまでのことは罪に問わないことにした。侯爵本人も了承済みだ。勿論、お前が俺を狙ったことも、側妃エリザに攻撃を仕掛けたことも不問とする」
なんだかよくわからないが、全てはベルフェール公爵家に非があると都合よく解釈してもらい、上手いこと収拾したようだ。
ベルフェール公爵家に非があるにしても、メルクリア家の罪全てがなくなる訳ではないはずなのに、ジーク王子の力だろうか。
色々気掛かりだっただけに、あっさり片付いて肩透かしを食らった気分になる。
「ルイス王子は?」
「エリザの企みについて察していた部分はあったようだが、協力者ではなかったことでお咎めはない。俺は、アイツも被害者だと思っている」
「そうね……」
幼少期から絶対に勝てない兄が目の前にい続け、周りの貴族からは利用され、実の母から排除すると言われ、ルイス王子がただただ可哀想になる。
そりゃ色々拗らせて面倒な性格にもなるわ、と妙に納得してしまう。
「全ての元凶はエリザだ。無理矢理側妃になっただけに飽き足らず、他の王族を抹殺してまで自分が王になりたいと願うなんて……それを見抜けなかった父上も、責任を感じている」
そりゃあ、国王陛下もさぞ複雑だろう。
エリザが自分を愛していないことは察していたかもしれないが、いずれ自分を殺して王になるつもりだったとは流石に思わなかっただろう。
彼女は、一体いつから自分自身が王になりたいと考えていたのだろう。
いつから権力に取り憑かれ、破滅の道を歩み始めていたのか。
考えが顔に出たのか、ジーク王子は静かに続けた。
「エリザは側妃になって程なくして魔術が使えるようになったらしい。それから、本来なら自分こそが正妃になるはずだったと考えるようになり、それが拗れて自分が女王になるという野心に変わったようだ。エリザが魔術を使えるようになっていることは、俺とルイスは薄々察していたが、まさか側妃が王になるなんて野心を持っていたとは思わなかったから、警戒の外にいたんだ」
野心家なのは悪いことではないが、彼女はやりすぎた。
マーサ王妃殿下が無事だったのは、偶然私が聖女として覚醒できたからだ。
そうでなければ、王国筆頭魔術師であるセインでさえ、『魔王の眼』による呪いは解けなかったのだ。
「彼女の処分は?」
「全ての調査が終わってから裁判が始まるから処分の決定はまだ先だが、最低でも魔力を封じた上で終身刑か、国外追放にはなるだろうな」
それならば、二度とこの国と王族に手出しはできないだろう。
私が安堵の息を吐くと、ジーク王子が私の右手を両手で握った。
「何から何まで、本当にありがとう。母上の件といい、今回はお前には助けられっぱなしだった」
「私は自分勝手に動いただけよ。お礼を言われるようなことじゃないわ。少しでも感謝してくれるなら、今後の調査でもしメルクリア家の余罪が明らかになっても、多色罪を軽くしてくれたら充分よ」
冗談めかして言うと、王子は軽く笑う。
その笑顔に胸の奥がきゅんとするが、それは見て見ぬ振りをする。
「……じゃあ、もう大丈夫ね」
私は王子の手をそっと解き、ベッドから降りた。
「レリア?」
「ジーク王子殿下、私は私の人生を、のんびり生きることに決めてるの。貴方とここにいたら、それは叶わないから……」
できる限りの笑顔を作る。
王子のことは嫌いではない。
何のしがらみもない世界で出会っていたら、選ぶ道は違っただろう。
視界が僅かに滲む。
お別れが辛いと思える程には、彼のことが好きになっていたのだと、改めて痛感する。
「さよなら」
下手くそな笑顔でそう言って、右手を掲げる。
「っ! レリア! 行くな!」
縋ろうとしてきた王子から目を逸らし、唱えた。
「転移魔術!」
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