第十三章 決着(2)
闇の中に佇んでいる。
ああ、またあの夢か。
状況を理解して辺りを見渡すが、彼女の姿はない。
「あれ? レリアはどこに行ったの?」
しんとした闇の中に一人。あの煩いレリアでも、いないと寂しく感じるものだなと妙に感心する。
と、目の前の闇が僅かに揺らいだ。
そこにレリアの姿が浮かび上がるが、今までの夢とは少し違う。
彼女の姿が、透けているのだ。
「レリア?」
彼女の紫の目は私を捉えた瞬間、かっと見開かれた。
「ちょっと! アンタ!」
いつも通り私に掴み掛かって来たが、しかし様子がおかしい。
「アンタのいた世界、なんて素敵なの!」
「……はぁ?」
私の元々いた世界のことだろうか。
何故彼女がそれを知っているのか。
首を傾げると、レリアは鼻息荒く説明してくれた。
「この闇の中で、私の体を取り戻す機会を窺っていたんだけど、ふと細い光の筋を見つけて辿ってみたの。そしたら、アンタのいた世界に繋がっていたのよ!」
キラキラと目を輝かせながら彼女は熱弁する。
「そしたら! アンタの体は交通事故で意識不明の状態だったんだけど、私が入ったら意識が戻って、アンタの生きていた頃の記憶も頭に流れ込んできたから、アンタとして生活してみたんだけど、何て楽で自由な世界なのかしら!」
「え、私、死んでなかったの?」
「ええ。意識不明の重体だったわ。でも、後遺症もなく目が覚めて、すぐに退院できた……ところで、アンタの世界のアンタの部屋にあった、マンガって本は最高ね!」
「……随分私の体を満喫しているようね」
レリアの変わりように、私はそれしか言えなかった。
前世の私の体が生きていたことは驚きだ。
生きているのなら、前世と表現するのも語弊がある気がするが。
私がぼんやりそんなことを考えていると、レリアは私が私の体を返して欲しいと言い出すとでも思ったのか、不満げに唇を尖らせた。
「……何よ、アンタが先に私の体を乗っ取ったんだから、今更返せって言ったって、返してやらないんだから! アンタの人生は私が面白おかしく生きてあげるわ!」
私の体が生きていたとして、元の世界に戻りたいかと聞かれるとそれは微妙だ。
前世の私は地味なアラサーOL、生きがいはマンガやゲーム。
今の私は美少女魔術師。面倒ごとも多いが、殺し屋にならなくて済むのならば、今の世界も悪くないと思っている。
何より、今の世界には私の周りに美形がたくさんいる。
こんな眼福な世界でのんびり暮らせるなら、それは最高ではないだろうか。
「……ええと、つまり、私が貴方として生きて、貴方が私として生きる、ってことで良いの?」
念のため確認すると、レリアは満足そうに頷いた。
「そういうことになるわね! じゃ! 明日はコミケだから!」
こっちの世界の住人だったとは思えない捨て台詞と共に、彼女は闇に溶けていった。
もう二度と、彼女とこの闇の中で会うことはなく、彼女の声が頭に響いて体を乗っ取られることもないのだと直感した刹那、私も闇から放り出された。
もしよろしければ、ページ下部のクリック評価や、ブックマーク追加、いいねで応援頂けると励みになります!




