第十三章 決着(1)
ルイス王子のことは、コンプレックスを拗らせていて面倒くさいとは思うが、決して嫌いではない。
彼が実母から虐げられているのなら、助けてあげたいと思うほどには、情もある。
私は意を決して両手を前に掲げた。
私がこれからしようとしているのは、王族に危害を加えるという、死罪になりうることだ。
いくらエリザが罪を犯しているとしても、それを裁く権利など私にはない。
だが、それが何だという。
そもそも、私にはジーク王子を暗殺しようとした過去がある。その時点で、今更恐れることはない。
それよりも、今目の前にいる、強欲さ故に実の息子でさえ平気で傷付ける女を、絶対に許せないという気持ちの方が圧倒的に強い。
先程、苛立ちから爆発したのとはまた違う、相手に対する如実な嫌悪感から来る怒りの感情。
その感情のまま、私は呪文を叫んだ。
「聖剣魔術!」
それは聖女が使う唯一の攻撃性魔術。
ゲーム内ではクライマックスで一度だけ登場する、「邪悪」なものに対しては最強の攻撃魔術だ。
部屋中に充満していた私の魔力が更に膨れ上がり、鋭い刃と化してエリザに向かう。
「防御魔術!」
エリザが叫ぶ。
彼女が魔術師だとは聞いたことがなかったが、どうやら魔術が使えるようだ。
魔力の防壁が築かれるが、聖剣魔術は術者が「邪悪」と看做したものに対して、絶対的な破壊力を持つ。
聖剣魔術の前では、「邪悪」な者の防御魔術など無力でしかない。
「っ!」
防壁は霧散し、エリザが息を呑む。
魔力の刃は消えることなく、彼女を貫いた。
「ぐっ……」
胸を押さえて膝をつくエリザ。
しかし実は、聖剣魔術は生身の人間に対して殺傷能力はほとんどない。
あくまでも「邪悪」が対象なので、人間に対して使う場合は、それがある心に働きかけるのだ。
彼女の心にある「邪悪」は、これで消えるはず。
私は続けて叫んだ。
「浄化魔術!」
浄化魔術はあらゆる穢れを祓う。
エリザの「邪悪」を溜め込んで穢れきった心も、きっと祓ってくれるだろう。
「浄化魔術だとっ? お前、まさか、聖女……」
言いかけて、彼女は意識を失った。
「……終わったのか」
呆気なく片付いて、ジーク王子が目を瞬く。
彼を振り返った私の視界が、ぐにゃりと歪んだ。
「……あ、れ?」
「レリア?」
立っていられない。
身体中の力が抜け、床が近づいていくのが妙にゆっくり感じられる。
遠くでジーク王子が何か叫んでいるが、何を言っているのかわからない。
ああ、そうか。
これは、慣れない魔術を連続で使い、更に怒りに任せて魔力を大量放出してしまった反動か。
そう理解した瞬間、私の意識は闇に沈んだ。
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