第十二章 黒幕(4)
暫し考え込んだ後に、ジーク王子は「よし」と呟いた。
「その話を信じてやっても良いが、その代わりにこの檻を開けろ」
「別に信じてくれなくても良いけど……兄上に恩が売れるなら、まぁ良いか」
あっけらかんと答え、彼はポケットから取り出した鍵で檻の錠を開けた。
まさか鍵を持っているとは思わず、ジーク王子と顔を見合わせた。
「その鍵は?」
「さっき公爵の自室で見つけて、念のため複製魔術でコピーを創っておいたんだ」
事実なのか、予め言い訳を考えていたのか、ルイス王子は澱みなく答える。
いずれにしても、彼のおかげで地下牢からすんなり脱出できたことはありがたい。
「……で、私達を転移魔術で地下牢に入れたのは、一体誰なの?」
私が尋ねると、ジーク王子は顔を顰めた。
「俺は確信しているが、証拠がある訳じゃない。まずは俺が本人に会って確かめる」
「一人で行くのは危険すぎるわ」
「お前をその危険に巻き込みたくないんだ」
真顔で言い、それから少し意地悪な顔で笑う。
「それとも、心配してくれるのか?」
「心配はするよ。人間として当然でしょ。この状況で一人で行かせて、何かあったんじゃ寝覚めが悪いじゃない」
ジーク王子に惹かれているから、という理由もなくはないが、何だか癪なのでそれは黙っておく。
「人間として、か……」
王子は残念そうに苦笑する。
その時だった。
轟音と共に地面が大きく揺れた。
「っ! 何っ?」
よろめいて壁に手をつく。
「まずい! 崩れるぞ!」
ジーク王子が叫ぶと同時に、先程までいた地下牢の内側の天井が崩落した。
私達はルイス王子の先導で、出口を目指して石畳の廊下を走り出す。
「防御魔術!」
ジーク王子が叫んだ直後、頭上から大きな石畳の一つが落ちてきた。
魔術の防壁に当たり、真っ二つに割れて地面に落ちる。
背後の廊下は、崩落でどんどん塞がれていく。
「出口だ!」
ルイス王子の言葉通り、階段の上に灯りが見えた。
動きやすい格好で良かったと心から思いながら階段を駆け上る。
灯りの中に飛び込んだ瞬間、私の前にいたジーク王子が足を止めて剣を抜いた。
カキンと剣同士がぶつかる音が響いた直後、今度は物凄い殺気と共、私に剣が振り下ろされてきたのを感じ取り、床を蹴って横に跳んだ。
攻撃を躱した私に、剣を手にしていた人物が舌打ちする。
ここは、どうやら書斎か何かの部屋のようだ。大きな本棚の一つが扉になっていて、地下への階段が隠されていたらしい。
ジーク王子が剣を押し戻して構え直す。
剣を持った男は二人。
二人とも口元を黒い布で覆っている。どう見ても公爵の調査にやって来た捜査員ではない。
「俺が誰だかわかって襲っているようだな!」
「ジーク王子、御命頂戴いたします!」
男二人は同時に剣を振り翳す。
何なのよもう。
矢文で脅迫されて、呼び出されたらアーネストに襲われ、何とかなったと思ったら転移させられて地下牢に入れられて、檻から出たら天井が崩落してきて、地下から逃げ出したと思ったら男が襲いかかってきた。
怒涛の展開に苛立ちが最高潮に達し、一気に限界を突破する。
「いい加減にしろーっ!」
私は右足で思い切り床を踏みつけた。
だん、と音が響いた刹那、そこから魔力の渦が生まれ、一気に周りを巻き込んで広がった。
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