第十二章 黒幕(3)
ジーク王子の手にある灯りに照らされた人物は、私達を見て驚いた様子で声を上げた。
「……え、兄上? レリア嬢? これは一体……」
やって来たのはルイス王子だった。
彼が黒幕だったのかと思ったが、様子がどうにもおかしい。
「ルイス! お前、どういうことだ! ここは何処だ!」
警戒しながら吠えるジーク王子に、ルイス王子は戸惑いを隠せない様子で答える。
「それは僕の台詞です。何故兄上とレリア嬢がここに? ここはベルフェール公爵邸の地下ですよ」
ベルフェール公爵邸に何故ルイスがいるのかも気になるが、彼にすれば母の実家に当たるので、今このタイミングでさえなければ、それほど不自然な話ではない。
「突然転移魔術で飛ばされたんだ」
「転移魔術で? 一体誰がそんなことを……」
眉を顰めるルイス王子。本気で犯人がわからないように見えるが、演技かもしれない。
少なくとも、私が知る魔術師の中で、ジーク王子と私の命を狙う動機がありそうなのは、彼しかいないのだ。
だが、彼が黒幕だとしたら、この状況で惚ける理由はないはずだ。
「見当はついている。それより、お前は何故ベルフェール公爵邸に?」
「公爵の余罪が次々明らかになってきて、急遽捜査が入ることになったんです。時間を置くと公爵が手を回して証拠隠滅を図るかもしれないので、夜明けを待たずに」
「公爵の捜査に、お前が?」
第二王子が、そんなことをするなんて本来ならありえない。
しかも、ベルフェール公爵家はルイス王子の母親の実家だ。ルイス王子が、公爵家に不都合な証拠を握り潰す可能性だって否定しきれない。
「僕は捜査員ではありませんよ。ああ、もちろん、証拠隠滅のためでもありません」
「じゃあ何故ここにいる?」
鋭く尋ねるジーク王子に、ルイス王子は強い眼差しを向けた。
「公爵の罪を全て暴くための証拠を押さえるためです」
それは、予想外の回答だった。
「公爵の罪を暴く? 捜査員でもないのに、ベルフェールと縁のあるお前が?」
不自然過ぎる。
しかし、嘘を吐いているようにも見えない。あくまでも直感だが。
「ベルフェール公爵は、僕こそが王になるべきだと煩くてね。もううんざりなんだ。公爵の爵位が剥奪されれば、僕を次期国王に推している馬鹿な貴族連中のほとんどは、もう強気には出られないだろう?」
飄々とした態度で説明するルイス王子。
困惑していると、彼は淡々と続ける。
「僕は捜査員に立候補したところで加えてもらえないだろうから、最初は大人しくしているつもりだったんだ。でも、捜査員の中に、公爵家の息がかかった人間が紛れている可能性が出て来てね。捜査中に証拠隠滅されては厄介だから、僕自ら潜入したって訳。そして、怪しいと思った部屋を調べていたら、隠し階段を見つけて、下ったらこの地下牢に繋がっていたんだ」
俄かには信じ難いが、私の直感は彼を疑っていない。
ジーク王子の様子を伺うと、彼もまた、私と同様に悩んでいる風だった。
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