第十二章 黒幕(1)
ジーク王子と私は急いで外へ飛び出した。
「アーネスト!」
王子が声を上げる。
アーネストとサーシャが待機していた場所は、どういう訳か炎に包まれていた。
「召喚魔術! 水龍!」
王子が叫ぶと同時に、膨大な水が空中に顕現し、龍の形を作る。
顎を開き、蛇のように畝って炎にぶつかっていった。
しゅうしゅうと音を立てて、火が弱まっていく。
数分で炎は消えたが、そこにいたはずの二人の姿がない。
「まさか……」
燃やされてしまったのではないかと青褪める王子に、私は力強く声を掛ける。
「大丈夫よ。サーシャがいる限り簡単にはやられないから」
獣人は魔術こそ使えないが、身体能力がずば抜けている。
相手が魔術師だったとしても、よほど強い魔術師でなければ魔術による攻撃を繰り出すより早く相手を直接攻撃することもできるため、そう簡単にはやられない。
「お嬢様、ご無事でしたか」
案の定、すぐに背後から声が掛かり、安堵して振り返る。
「サーシャこそ無事で……は?」
思わず間の抜けた声が出てしまった。
なんと、サーシャはアーネストを横抱き、いわゆるお姫様抱っこの状態で抱き上げていたのだ。
アーネストはかなりの長身の上に、騎士として鍛えている分体格も良い。
それを、私より小柄なサーシャが軽々と抱き上げている光景はどう見ても異様だ。
「えっと……どういう状況?」
「お二人を待っていたら、突然魔術による攻撃を受けたので一旦退避していました。アーネスト様は先の件で動きが鈍っておられるご様子だったので、僭越ながら私が肩をお貸ししました」
「肩を貸すっていうか、お姫様抱っこよね、それ」
平然とした様子のサーシャに、アーネストも抱き上げられたまま固まっている。
二人の姿を見て絶句していた王子は、信じられないと言いたげな顔でこちらを振り返った。
「……お前のメイド、まさか獣人か?」
身体強化の魔術を掛けている訳でないのなら、こんなことができるのは獣人しかいない。
サーシャが獣人の血を引いていることは、本来であればトップシークレットだ。
今の時代、迫害はされないが、獣人は身体能力の高さ故に労働力として欲する貴族が多く、周囲に獣人であることが知られると面倒なことになりかねないからだ。
しかし、この状況でしらを切り続けるのは流石に困難だ。
サーシャもそれはわかっているだろうが、私の口からどう説明したものか。
悩みつつ彼女を見ると、意外にも彼女は冷静だった。
「祖母が獣人でした。四分の一しか獣人の血が流れていませんので、純血の獣人に比べたら私など人間と変わりません」
すん、とした顔で答えるサーシャに、王子は何か言いたげに私を見た。
「今はサーシャの出自などの話をしている場合じゃないわ。クリフを捕らえて、黒幕を探さないと」
説明するのが面倒なのと、実際それどころではない状況なのとで、私がそう言うと、王子ははっとして空き家に駆けて行った。
玄関で立ち止まり、中の様子を見て、拳を壁に叩きつけた。
「くそ!」
私も王子に続いて中を覗き込む。
入り口からでもわかった。倒れていたはずのクリフが、忽然と消えていたのだ。
「やられた! さっきの爆発は、二人に対する攻撃じゃなく、俺達を家から追い出すためだったのか!」
王子が歯噛みする。
「どうするの?」
「黒幕を叩く」
「見当は付いてるの?」
「ああ……そうでない事を願いたいが、こんな事ができるのは、この国に数人しかいない。その中で動機があって、状況的にも可能なのは、一人しかいない」
言われて、思考を巡らせる。
私が知っているこの国の魔術師は、ジーク王子、ルイス王子、セイン、シルヴィ、そして私だけ。
こんな事をする動機がある人物を考えて、私は息を呑んだ。
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