第十一章 進展(5)
ベルフェール公爵はやり過ぎてしまった。
ジーク王子は、きっと全力で公爵の罪を暴くだろう。
そうなれば、ベルフェール公爵家とメルクリア侯爵家の繋がりにも気付くはずだ。
そうなれば当然メルクリア家の家業も露見することになり、ずっと暗殺を請け負ってきていた父とディアスも、ただでは済まない。
だが、父もディアスも、ベルフェール公爵に逆らえなかっただけだ。どうにか、罪を軽くできないだろうか。
いざとなれば、私の聖女としての立場を最大限利用して国王に交渉するしかないか。
そう考えを巡らせた時、クリフが再び自らの頭を床に擦り付けた。
「……ジーク王子殿下、此度の我がベルフェール公爵家の罪は、私が心から謝罪いたします」
「お前の謝罪一つではもうどうにもならない。お前もこの後取り調べとなる。大人しく城へ来い」
「……承知いたしました……」
項垂れながらも立ち上がるクリフは、チラリと私を一瞥した。
その視線に、嫌な予感を覚える。
「……ところで、レリア嬢。メルクリア侯爵はお元気ですか?」
私に向けて尋ねてきたその瞬間、クリフの意図を察した。
彼は、メルクリア家の秘密をここで暴露するつもりだ。
「ええ、それがどうかしましたか?」
狼狽えてはダメだ。そう言い聞かせ、敢えて真顔で問い返す。
「いえ……我がベルフェール家がなくなれば、少なくともメルクリアもただでは済みませんから、侯爵もさぞ心配されていらっしゃるのではと……」
「何が言いたいのですか?」
惚けながら尋ねる。クリフは僅かに唇を歪めた。
私たちのやり取りを、ジーク王子は怪訝そうな顔で見守っている。
「だって、メルクリア家はベルフェールの……っ!」
言いかけたクリフが言葉を詰まらせる。
そのまま、首に手を当てて苦しそうに呻く。
その手に嵌められている指輪が、鈍く光った気がした。
「クリフ? おい、どうした!」
異変に気が付いた王子が、クリフの肩を掴んで前後に揺する。
クリフは何も言わないまま、気を失った。
「おい! しっかりしろ!」
王子が頬を叩いても、今度は全く反応しない。
「クリフ、一体どうしたの?」
「おそらく指輪を介して、遠隔操作で口を噤ませたんだ。そんなことまでできるなんて……」
「……ねぇ、本当に、ベルフェール公爵の仕業なのかな? 公爵も多少は魔力を持っているはずだけど、主従の指輪を通してクリフに高度攻撃魔術を使わせたりできるほどじゃないと思う」
私の言葉に、王子は剣呑な顔をした。
「そうだな……確かに不自然だ。他に黒幕がいる可能性があるな」
ベルフェール公爵を利用しようとしているのか、または彼が従うような人物なのか。
加えて、高度攻撃魔術が使える人物となれば、かなり絞られるはずだ。
「……まさか……」
王子が何かに気付いたような顔をして、それからそれを否定するように首を横に振った。
「いや、流石にそれはないか……」
「殿下?」
顔を覗き込んだ瞬間、外から激しい爆発音が響いた。
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