第十一章 進展(4)
警戒しつつクリフの傍で膝を折る。
彼は完全に気を失っていた。
彼の右手薬指に嵌められた指輪を見るが、今は魔力を感じない。
私の隣に来たジークが、その指輪を見て呟く。
「……これは、主従の指輪だ。親器と子器があって、親器を身につけた人間が子器を身につけた人間を操ることができる。それに加えて、親器側から子器側へ魔力を送ることも可能な代物だ……そして、これは子器だ」
オヤキとコキって電話かよ。
おっと、この世界に電話はないし、前世の世界でもスマホが溢れていたからもう親機も子機も死語に近いんだった。
内心で一人漫才をする隣で、王子は続けて呟いた。
「ベルフェール家の人間は魔術師になれるほどではないが、魔力を持っている者が多い。利用された可能性は高いな。王城を出入りしても不審がられない公爵家子息のクリフを操り、間接的にアーネストに操作魔術を掛けたんだろう」
王子の推察はおそらく正しい。
問題は、一体誰がクリフに指輪を嵌めさせたのかということだ。
何となく予想はついているが。
「おい、起きろ!」
王子はやや乱暴に呼び掛け、クリフの頬を叩いた。
「……ん」
小さく呻いて、クリフが目を開ける。
その目が王子を捉えた瞬間、がばっと起き上がり流れるように土下座した。
「ジーク王子殿下! この度は大変失礼を……!」
声も体も震えている。
彼は自分が何をしたのかわかっているようだ。
「クリフ、お前は操られていたんじゃないのか?」
「ええ……記憶は曖昧ですが、朧げながら、体が勝手に動き、ここで殿下とレリア嬢に魔術を行使したのを覚えています」
「その指輪が原因だが、その指輪はどこで手に入れた?」
「これは、私の父が、捕まる前に私に残してくれたものです」
その言葉に、ジーク王子の顔色が変わる。
「ベルフェール公爵が?」
「はい。自分にもしものことがあったら身につけろと言われていたので……」
クリフの言葉に、状況が呑み込めた様子の王子は舌打ちした。
「あの狸め。まさか息子を傀儡にしてまで、逮捕後に手を出してくるとはな」
「どういうことですか? まさか、父が私を操っていたのですか?」
「その自覚はなかったのか」
「はい……確かに指輪を嵌めた辺りからの記憶が曖昧ですが、まさか父が私を操るなんて……まして、ジーク王子殿下とレリア嬢に危害を加えようとするなんて……」
クリフは本気でショックを受けているようだ。
「公爵ならやりかねない。お前が思っている以上に、あの男は陰険で、俺を嫌っている。王妃暗殺に失敗し、自身も逮捕されて、なりふり構っていられなくなったんだろう」
「王妃殿下暗殺はミルマの独断だったと聞いていますが……」
口を挟んだクリフに、王子は淡々と説明した。
「世界三大魔具の一つである『魔王の眼』を、ミルマ一人の力で入手できるはずがない。ベルフェール公爵はどうにかして入手した『魔王の眼』を「呪った相手が死ぬ魔具だ」と言ってミルマに委ねたんだ」
王子の言わんとするところを理解して、クリフが押し黙る。
私も、王子の意図を悟った。
私がルイス王子の婚約者候補から外れた時点で、自分が最有力候補になったと思ったミルマは、次にルイスが王になる方法を考えた。
手っ取り早いのは、現王妃が亡くなり、ルイス王子の母親が正妃に繰り上がることだ。そうすれば、ジーク王子とルイス王子は同格となり、あとは無駄に権力を持った貴族連中がルイス王子を、王に押し上げてくれる。
ベルフェール公爵は、自分の娘ならきっとそうすると読んでいたのだろう。
実際、取り調べでは「王妃殿下の暗殺はミルマの独断だ」と言い張っているらしい。彼が指示した訳ではないという意味では、それはあながち間違いではない。
「……あの狸め、撤退的に罪を暴いて断罪してやる」
ジーク王子が吐き捨てる。
そのセリフに、私はメルクリア家との関係と、家業が露見することを覚悟せざるを得なかった。
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