第十一章 進展(2)
玄関の扉にジーク王子が手を掛ける。
通常空き家であったも施錠されているはすだが、その扉はすんなりと開いた。
怪しい。
ジーク王子も警戒しながら中を覗き込み、ゆっくりと歩みを進める。
「何が起きるかわからない。手を離すなよ」
「うん」
正直手を繋いでいるのは嫌ではないが、彼を好きになりたくないと思っている以上複雑だ。
しかし状況が状況なので、仕方なくその手を握り返す。
家は二階建てで、玄関を入ってすぐはキッチンとダイニングになっていた。奥に階段がある。
「……妙な気配がするな」
王子は目を眇めた。
私も辺りに気を配りながら頷く。
「ええ、刺すような視線をいくつも感じる」
本当に妙だ。
人がいる気配はないのに、視線だけ感じる。
「罠か」
「その可能性は高いと思うけど、サーシャが断言した以上、クリフ自身がここにいるのも間違いないわ」
「……随分あのメイドを信用しているんだな」
「長い付き合いだからね」
私の言葉に、王子は「ふぅん」と鼻を鳴らした。
と、その時だった。
王子の足元に、魔法陣が顕現した。
「防御魔術!」
王子が咄嗟に唱え、淡い光が私達を包み込む。
その直後、魔法陣から恐ろしいほど膨大な魔力が噴き出した。
「これは、高度攻撃魔術……!」
王子が魔法陣を見て驚いた顔をする。
高度攻撃魔術とは、通常の攻撃魔術よりも相手への的中率と殺傷率を高めた魔術のことだ。防御魔術さえ貫通する威力があるが、当然、通常の攻撃魔術よりも魔力消費が大きく、扱える魔術師は少ない。
当たり前だが、魔術師でさえないはずのクリフが使えるはずのないものだ。
しかし、この魔術の主を詮索する余裕など、今の私達にはない。
魔法陣から噴き出した魔力は、無数の鋭い刃となって私達に向かってくる。
いざとなれば私が防御魔術を唱えようと身構えるが、それよりも王子の方が早かった。
「風壁!」
王子の唱えた言葉に応えて、室内だというのに足元から風が強く舞い上がった。
風が盾となり、刃を全て弾き落とす。
一瞬後には、魔法陣の魔力は霧散していた。
今のジーク王子が唱えたのは属性魔術の一つだ。
属性は大きく地、風、水、火に分類され、それらを操り攻撃や防御に転じさせる。
魔術師によって得意な属性があり、ジーク王子は風を操るのが得意なようだ。
それにしても、高度攻撃魔術を一言の呪文で全て弾くとは、流石ジーク王子だ。
「……姿を見せろ」
王子が低く言い放つ。
直後、部屋の奥の闇が揺らいだ。
もしよろしければ、ページ下部のクリック評価や、ブックマーク追加、いいねで応援頂けると励みになります!




