第十章 襲撃(5)
視界が真っ暗になり戸惑う私の頭上から、不満げな声が聞こえてくる。
「おい、アーネスト。お前が誰を口説こうが勝手だが、コイツだけはダメだ」
ジーク王子だ。
私の背後を容易く取れるのだから、やはり只者ではない。
ジーク王子の言葉に、アーネストが苦笑したような気配がした。
「流石に殿下の婚約者候補殿に手を出したりしませんよ」
「女絡みにおいてのお前は信用できない」
断言するジーク王子。
もしかして、この世界のアーネストは爽やかなキャラと見せかけて、女たらしキャラなのだろうか。
見た目が好青年なだけに、これで本性がチャラいのだとしたら至極残念だ。
「酷いですね。俺は来る者を拒まないだけですよ」
「向こうから来るように仕向けているくせによく言う」
アーネストはジーク王子に対して、敬語ではあるが砕けた態度を取っている。
そういえば、アーネストの父は元騎士団長で王子の剣技の師匠であり、アーネストも幼い頃からジーク王子と共に剣技を磨いてきた、という設定があったことを思い出す。
つまり二人は幼馴染なのだ。
「仕向けるだなんて人聞きの悪い。俺はこれでも侯爵家の子息にして騎士団長ですからね。それにこの顔ですから、自分から何かしなくたってモテるんですよ」
否定しないどころか顔の良さの自慢まで入れてくるとは、チャラいだけでなく天性のナルシストか。
やはり、結局ゲームの中のキャラクターと性格が違い、最早感心する。
というか、何だこの状況は。
何故私はジーク王子から目隠しされているのだろう。
私はジーク王子の手を退けながら、やんわりと断りを入れる。
「あー、すみませんけど、私はアーネスト様のような方はタイプではないので大丈夫ですよ」
その宣言に、ジーク王子とアーネストが驚いた顔をする。
「侯爵家子息で騎士団長のアーネストがタイプじゃないだと?」
「そんなこと、初めて言われた……」
ショックを受けた様子のアーネストだが、事実なので仕方がない。
ちなみに、確かにバーティアも侯爵家だが、メルクリアの方が歴史が古く、領地も広いため、同じ侯爵家であってもメルクリアの方が立場は少し上となる。
とはいえ、私は爵位にも権力にも興味がないので、侯爵家の子息だろうがなんだろうが関係ないのだけど。
「じゃあ、お前のタイプとやらはどんな男なんだ?」
ジーク王子が興味深げに尋ねてくる。
「クール系ツンデレキャラかな」
「クール? ツン? 何だ?」
思わず即答したが、当然この世界にツンデレなどという言葉はない。
首を傾げたジーク王子に、私は何と説明したものかと考える。
「んー……普段は冷たいのに、好きな女の子にだけ時々優しい一面を見せるような、そんな感じかな」
「冷たい男が好きなのか? 変わっているな」
そんな事ない、と言おうとした時、縄を片付け終えたサーシャが口を挟んできた。
「それってジーク王子殿下のことですか? 婚約者候補探しが難航するほど他者へは冷淡だと聞いていましたが、お嬢様に対してはかなりお優しいようですし」
そう言われてしまうと当てはまってしまう気がするが、私の好きなキャラとは少し違う。
そう訂正しようとしたが、ジーク王子が声を上げる方が早かった。
「そうなのか!」
「ちーがーうー! 私の好きなタイプは……」
言いかけて止まる。
変態じゃないディアスが好きだと言っても、王子はディアスが変態だとは知らないのでただのブラコンだと思われて終わりだ。
「とにかく! 殿下も私の好みのタイプじゃないから!」
誤魔化すように叫んで、私はサーシャに、早くクリフの居場所へ案内するよう促した。
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