第十章 襲撃(3)
「私が殺し屋だって知ったくらいでジーク王子殿下が婚約者候補から外してくれるなら、喜んで秘密を明かすわ」
そもそも、ジーク王子を暗殺しようとして返り討ちに遭っている時点で、秘密でも何でもない。
何を言っているんだと言わんばかりの私の態度に、アーネストは眉を顰めた。
「……殺し屋一族の末裔とはいえ、随分肝が据わっているな」
「お褒めに預かり光栄です……ところで、あなたは誰ですか? アーネスト様ではありませんよね?」
わざとらしく一礼してから私が問うと、アーネストはくつくつと笑った。
「残念ながら、私は紛れもなくアーネスト・レイ・バーティアだ」
そう言い切る彼の顔にまた別の誰かの顔が重なる。
不審に思い目を細めた私に、アーネストは手を突き出した。
「捕縛魔術!」
再びアーネストが唱え、魔力が鞭のように私に伸びる。
捕縛魔術なら防御魔術で防げると先程実証済みだ。
私は右手を掲げて口を開いた。
しかし。
「っ!」
声が、出ない。
私は咄嗟に飛び退く。
アーネストの捕縛魔術は一度は空振りしたものの、更に伸び上がって私の左足首に巻き付いた。
息を呑む間もなく、魔力の鞭は一瞬で私の全身を縛り上げて、自由を奪ってしまう。
身動きを封じられた私は、そのまま地面に倒れ込んだ。
迂闊だった。捕縛魔術の他に、声を封じる魔術を無詠唱で成立させていたのか。
唇を噛む私の前で、アーネストは剣を振り翳す。
「せめて一瞬で楽にしてやろう」
剣が月明かりに煌めく。
あれが振り下ろされたら、自分の首と体は一撃で離れ離れになるだろう。
もうダメだ、と観念した、その直後。
「レリア!」
声がしたと同時に、風が強く吹き抜けた。
風は意志を持つようにうねり、アーネストに絡み付く。
「くっ! 何だ!」
見えない鎖に縛り上げられたアーネストが膝をついた。
同時に、私を縛っていたアーネストの魔術が解ける。
「レリア! 無事か?」
駆け寄ってきた人物に目を見張る。
月明かりに照らされた淡い金髪と深紅の瞳、この国の第一王子だ。
「ジーク、王子殿下……」
声を封じる魔術も解けたようだ。
安堵しながら彼の手を借りて身を起こすと、彼は目に見えてほっと息を吐いた。
「間に合って良かった……」
「殿下、どうしてここに……」
「お前のメイドに聞いた」
「サーシャに?」
確かに、私と共に矢文を読んだサーシャならば、夜中に私がいない事に気付いた時点で、旧教会だと思うだろう。
だが、ジーク王子がここにいる理由にはならない。
もう一度問おうとした時。
「夜中に突然屋敷に訪ねて来られたのです」
淡々としたサーシャの声がして振り向くと、彼女はアーネストの体を足蹴にして、縄で縛り上げていた。
手早い。
「ジーク王子殿下がいらしたとお声かけしましたがいらっしゃらなかったので、間違いなく旧教会かと……」
言いながら、ぎりぎりと縄を締め上げる。
「アーネスト、申し開きはあるか?」
ジーク王子がアーネストの前に仁王立ちする。
彼は舌打ちをした。
「くそ、何故第一王子がこんな所まで……」
「……お前、アーネストじゃないな。体だけ乗っ取ったか」
呟くと、ジーク王子は、彼の顔の前で軽く手を振った。
「解放魔術」
王子が静かに唱えた瞬間、アーネストがかくんと気を失った。
もしよろしければ、ページ下部のクリック評価や、ブックマーク追加、いいねで応援頂けると励みになります!




