第十章 襲撃(2)
その夜、私は昨日同様黒い服に袖を通し、部屋を抜け出した。
屋敷を出てすぐに遮蔽魔術と飛翔魔術を唱えて、旧教会を目指す。
数分で到着し、辺りに人の気配がないことを確認して、正面入り口の見える通りに着地する。
旧教会の敷地内は背の高い雑草が茂り、廃墟と化した建物を取り囲んでいる。
月明かりの下に聳える教会はただ不気味で、前世の世界だったら間違いなく心霊スポットになっていただろう。
時計は持参していないが、屋敷を出てきた時間から考えると、そろそろ零時になるはずだ。
私は気を引き締めて、用心深く辺りの様子を探った。
念のため、遮蔽魔術は解除しないでおく。
と、足音が聞こえてきた。
振り向くと、人影が一つ、こちらに近づいてきていた。
私を呼び出した、あの矢文の主だろうか。
息を殺して相手を観察する。
目深に被ったフードで顔は見えないが、背は高い。体格からして男のようだ。
「捕縛魔術!」
唐突に男が叫び、魔力が鞭のように伸び上がった。
フードの奥で炯々と光る眼は、間違いなく私を捉えている。
まずい。
「防御魔術!」
咄嗟に唱えると同時に、魔力による防壁が織りなされ、男が放った魔力が弾かれる。
「……やはりそこにいたか」
男が呟く。同時に、風でフードが揺れ、ちらりと赤い髪が見えた。
燃えるようなあの色の髪を持つ人物を、私は一人しか知らない。
「アーネスト……」
思わず呟くと、遮蔽魔術が弾け散ってしまった。
どうやら、「どんな形であっても呼びかけに答えたら遮蔽魔術を破る」というような魔術を使っていたらしい。
おかしい。ゲームの中では、アーネストは魔術が使えないキャラだったはず。
闇夜に浮かび上がった私を見て、王国が誇る騎士団長であるはずの男はフードを取り、剣を抜いて凄絶に笑った。
「レリア嬢、悪いが、ここで死んで頂く」
「何故貴方が私の命を狙うのか、せめてそれだけでも教えて頂けませんか?」
私が問うと、アーネストは唇を僅かに歪めた。
「ある方からの依頼だ。心当たりはあるだろう?」
なるほど、やはり黒幕はベルフェール公爵か。
心当たりがありすぎる。
「国王直属の騎士団長であるアーネスト様が、何故そのような依頼を?」
「金さ。アンタを殺せば金をくれると言われたからな」
そう答えるアーネストの顔に、他の誰かの顔が重なった気がした。
その瞬間、本能が訴えかけてきた。
もしかして、今目の前にいるアーネストは、誰か別人による変装か、または操られているのではないか。と。
それならば、魔術が使えないはずのアーネストが魔術を行使したことの説明がつく。
「……そうですか。ところで、私の秘密というのは、何のことを指していたのですか?」
答えてくれないだろうが、念のため聞いておく。
と、意外にもアーネストはすんなり答えてくれた。
「メルクリア家が古くから暗殺を請け負ってきた殺し屋だってことだ。それをジーク王子に伝える。そうすればお前は婚約者候補から外されるだろう」
それを秘密だと思っているなら、とんだ期待外れだ。
私はやれやれと溜め息を吐いた。
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