第十章 襲撃(1)
私は、ジーク王子の婚約者候補となっている今の状況を打破する方法を、必死に考えた。
王族の嫁になるには、清廉潔白な乙女であることが必須だ。
ならば、町に出て適当な男を引っ掛けて処女喪失を狙うか。
いや、そもそも前世の私は地味なアラサーOLで、当然のように彼氏いない歴=年齢だった。そんな私に、町で男を引っ掛ける度胸などあるはずもない。切ない理由だが、却下だ。
では、ジーク王子に嫌われるよう仕向けるか。
いや、初対面であれだけの暴言を吐いたのに気に入られたということを考えると、嫌われようとすることが逆効果になる気がしてならない。ダメだ。
ーーーーーそれならジーク王子を殺せば良い。
頭の中でレリアの声がするのを、心で「却下!」と叫びながら押し込める。
他に何か良い方法はないものか。
「家出しちゃおうかな……」
何気なく呟いて、即座に否定する。
今はまだダメだ。ベルフェール公爵の裁判が終わっていない。
彼の処遇が決定し、メルクリア家に手出しできない状況であることを確認しない限り、安心してここを離れられないのだ。
と、その時、部屋の窓にこつんと何かが当たった。
風で小石でも飛んできたか。
不審に思いつつ、窓に歩み寄る。バルコニーのない、腰高の窓だ。
そっと外を見てみるが、見える範囲には誰もいない。
警戒しながら窓を開けた、その刹那。
ひゅん、と正面から何かが飛んできた。
「っ!」
瞬時にそれを躱す。前世の私ではあり得ない反射神経だ。流石は暗殺者の体。
避けたそれは、奥の壁に突き刺さった。
「……矢文?」
飛んできたのは、紙が括り付けられた矢だった。
それを外して広げると、そこには赤いインクで殴り書きしたような雑な文字が書かれていた。
『レリア・ルーン・メルクリア嬢
貴様の秘密を知っている。
バラされたくなければ、今夜零時に、町外れの旧教会まで一人で来い。』
不気味な文面だ。
私はサーシャを呼び、この矢と手紙を見せた。
「……匂いがしません。遮蔽魔術が掛けられているようですね」
やはりか。感知魔術も試してみたが、結果は同じだった。
「そういえば、セインが見つけられなかった王妃殿下を呪っていた犯人を匂いで探し出したのに、これはわからないの?」
「例の件は、城から漏れ出ていた不自然な匂いを辿った結果、ミルマ嬢に辿り着いただけです。この矢と手紙は魔具でさえありませんので、遮蔽魔術で気配と匂いを消されてしまうと獣人でも感知できません」
「不自然な匂い?」
「ええ。表現が難しいのですが、『魔王の眼』による呪いのものかと思われる、ほんの僅かな匂いの揺らぎです。魔力ではありませんので、感知魔術で読み取ることはできません」
「なるほど」
詳しくはよくわからないが、獣人にしかできない芸当で魔具の所在を突き止めた、ということだろう。
私は改めて手紙に目を落とした。
「……一体誰がこんなものを……」
秘密とは、何のことだろう。
私が転生者であることか。
それとも突然魔術が使えるようになったことか。
いや、浄化魔術が成功して聖女として覚醒したことかもしれない。
もしくは、メルクリア家の家業のことだろうか。
私には秘密が多すぎる。
「……お嬢様、まさかのこのこお一人で旧教会になんて行きませんよね?」
サーシャがすっと目を細める。
旧教会とは、このウェスタニア王国の国教である『ロージスト教』の神である《ローゼ》を祀る大聖堂が、王城の近くに建設される前に使われていた建物だ。
立派で堅固な石造りだがいかんせん築年数が三百を優に超えているため、一部崩落の危険があり敷地内への立ち入りが禁止されているのだ。
そのため、周囲はいつも人な気配がなくひっそりとしている。
「でも、行かないと誰がこんなことをしたのかもわからないし……」
「罠ですよ。秘密なんてきっとハッタリです」
サーシャはそう言うが、秘密というのがハッタリだとしても、私を呼び出す理由は何だろう。
相手の目的もわからないのでは、今回の呼び出しを無視したとしても今後何をしてくるかわからない。
私は、密かに出向く決意をした。
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