第九章 浄化(5)
もしもこの世界に神様がいるとしたら、前世の世界でこのゲームのシナリオを書いた人やゲームの原案者、ついでにゲームの大ファンだった私に土下座して謝って貰いたい。
ゲームキャラの性格が変わりすぎだろ。
私が転生憑依する前のレリアは殺し屋になる気満々の危険人物。
怠惰で女好きなはずのジークはただの天才。
穏やか王子キャラのはずのルイスは腹黒コンプレックス拗らせ男。
穏やか腹黒ドSキャラのはずのセインはドM。
ヒロインであるはずのシルヴィはヤンデレのメンヘラ。
そして何より許せないのが、前世の私が愛してやまなかった推しキャラのディアスが、シスコンでロリコンでヤンデレになっていたことだ。
クール系ツンデレキャラが良かったというのに。
神様の馬鹿野郎。絶対許さん。
今のところゲームと性格が変わっていないのは爽やかキャラのアーネストだけか。
いやそれも、この後で違う性格だと発覚するかもしれない。油断禁物だ。
と、一瞬現実逃避にも近いことを考えたが、目の前のセインと目が合ってはっとする。
「……私は、これでもジーク王子殿下の婚約者候補です。その他の殿方と必要以上に親しくなるのはあまり良くありませんので、お断りさせて頂きます」
表面を取り繕いまくってそう告げる。
セインとて王国筆頭魔術師である立場上、王族を無碍にはできないはずだ。
しかし、彼は私の予想の斜め上をいっていた。
「良いのですよ、貴方様はジーク王子殿下とご婚姻を結ばれ、ゆくゆくは王妃になるお方……そして、私にとっては女王様となるのです」
その女王様って、意味が絶対違うやつだよな。
私はボンテージ姿で鞭を振るうSM嬢を想像して、ぶんぶんと頭を振った。
というか、こんなドM野郎が筆頭魔術師で大丈夫なのか、ウェスタニア王国。
「……お断りします。お引き取りください」
冷たく言って席を立つ。
部屋を出る直前に一瞥したら、まだ私をキラキラした目で見ていて背筋に冷たいものが這うような心地がした。
そうだ。前世で、ドMの男に好かれてしまったヒロインが、どんなに拒絶しても相手に喜ばれてしまい絶望する、という漫画を読んだ記憶があるが、この状況はまさにそれだ。
その漫画のストーリーでは、別れ話をしても聞き入れてもらえず、やむを得ずフェードアウトしようとするが、それさえも壮大な放置プレイだと思われて効果がない、というオチだった気がする。
つまり、ドMのセインにはどんな拒絶も逆効果ということか。
そのうち「踏んでくれ」とか言い出したらどうしよう。
応接間を出た私は、廊下を歩きながら悪寒がして両腕を摩った。
何が何でもジーク王子の婚約者候補から外れる必要性が、今まさに急上昇した。
このままジーク王子と結婚することにでもなったら、王妃としての窮屈な人生になるだけでなく、身近にドMの変態が常駐する状況が確定してしまう。
冗談じゃない。
やっと、兄ディアスという、シスコンでロリコンでヤンデレの変態から逃げられたばかりだというのに、今度はドMという別の変態が迫ってくるなんて。
どうにかして、王子との結婚を回避せねば。
自室に入るなり、私は思考をフル回転させるのだった。
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