第九章 浄化(3)
「うん、王位なんて興味ないよ。何で皆、僕が国王になりたいと思っていると思うんだろう」
本気で解せないと思っているような口ぶりだ。
どうやら王位に興味ないのは本当らしい。
「王位に興味ないなら、そう言えば良いのでは?」
私が首を傾げると、ルイス王子は深々と溜め息を吐いた。
「言って聞く連中だと、本気で思っているの? あの天才の兄上を、怠惰で王の器じゃないだなんて馬鹿げたこと言うような奴らだよ?」
その一言に、ルイス王子のバックボーンの全てが詰まっている気がした。
ジーク王子とルイス王子は、生まれ年は違うが、誕生日自体は半年程しか変わらず、ほぼ同い年だ。当然、勉強や剣技、魔術などの教育は共に受けたきただろう。
そして、ジーク王子は一度聞いたことは忘れない、一度習った魔術もすぐ扱えてしまう天才。
ルイス王子とてそれなりの才覚はあるはずなのに、目の前にずっと超えられない壁がある状態で生きてきたのだ。
そして、そんな天才をどういう訳か怠惰で奔放、王の器ではないと断じる者達から、王になるべきは貴方だと言われているルイス王子。
ジーク王子の素顔を知ってから、ずっと謎に思っていた。
ルイス王子を次期国王に推している貴族達は、何を以ってしてジーク王子が国王に相応しくないなどと言っているのか。
実は王子の素養の問題ではなく、単純にルイス王子が国王になった方が、自分達に都合が良いだけなのではないか。
だとすれば、ルイス王子の意思さえ無視して話を進めようとしていても不思議はない。
寧ろ、流されてくれるような意志の弱い王子の方が、王位に就いた後操りやすくて良いのだろう。
権力を巡る争いの何と醜いことか。
「王位には興味ないけど、あの兄上を悔しがらせることができるなら国王になっても良いかなって思ってたんだ。でも気が変わった」
ルイス王子は、にっこりと微笑んだ。
爽やかな笑顔のはずなのに、背後に黒いものが見えるのは気のせいではないだろう。
嫌な予感しかしない。
「あの兄上が初めて自分から婚約者にしたいと言い出した相手……その相手が僕を選んだら、流石にあの兄上も悔しがるだろう」
昨日から、やたらジーク王子に突っかかるような言動を見せていたのは、天才を前に負け続け、ずっと悔しい思いをしてきた反動からか。
その境遇には同情するが、しかしだからと言ってルイス王子に情愛が傾く訳ではない。
「私は、兄を悔しがらせたいってだけで女を手に入れようとするような男なんて御免よ」
礼儀も無視して間髪入れずに答えると、ルイス王子は面白そうに笑う。
「あはは、兄上が気に入る訳だ。面白い。じゃあ、僕も本気を出して、君を惚れさせようかな」
私の腕を掴む手に力が入る。
その瞬間、すん、と表情が消えるのが自分でわかった。
残念ながら、こういう強引系キャラは爽やか系と同じで前世からあまり好きではないキャラ属性なのだ。
私はあくまでも、ゲームの中のディアスのような、クール系ツンデレキャラが好きなのである。
ミルマを捕らえた時にルイス王子が見せた冷たい表情は悪くなかった。顔は紛れもなく美形なので、これで中身がクール系ツンデレであればうっかり惚れてしまったかもしれない、というのは内緒にしておこう。
「私、貴方みたいなタイプは嫌いなの。残念だったわね」
ルイス王子の手を振り払って、私は真正面から彼を睨んだ。
そこまで明確に拒絶されると思っていなかったらしいルイス王子は、やや動揺した様子を見せる。
「……そんなこと言うなら、君が魔術を使えると兄上に伝えてしまうよ?」
「私が魔術を使えるとジーク王子殿下が知ったら、すぐにでも結婚の話が進むって言ったのは貴方よ。そうなれば、結局貴方は私を手に入れられずに終わることになるわ」
苦し紛れの脅しだったのは自分でもわかっていたようだ。ルイス王子が言葉に詰まる。
私は身を翻した。
「では、私は失礼します」
急加速して飛び去った私を、ルイス王子は追ってはこなかった。
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