第九章 浄化(2)
突然魔力が宿り、飛翔魔術が使えるようになって浮かれて夜の空を散歩していたら、いつの間にか王城上空に立ち入ってしまった。
という私の説明に、ルイス王子は不審そうに目を細めた。
「いつの間にか王城上空に立ち入ったと言う割には、遮蔽魔術なんて掛けて用意周到だったみたいだけど?」
「私が魔術を使えるなんて誰も知らないので、空を飛んでるところを見られたら騒ぎになります。だから最初から遮蔽魔術を掛けていたんです」
嘘八百たが、嘘も方便だ。
「……なるほど、一応筋は通っているね……ところで、君が魔術を使えるようになったっていうのは、兄上は知っているの?」
「いいえ。まだ話していません」
「その様子だと、話す気もなさそうだね」
見透かしたような翠の瞳に、私は口を噤む。
沈黙を肯定と受け取り、ルイス王子は目を瞬いた。
「何で魔術師になれたということを兄上に隠すの? 第一王子の婚約者候補なら隠す必要ないよね? 報告したらすぐに婚約どころか、結婚の話に進むはずだよ」
そりゃあ、ジーク王子と結婚したくないからに決まっている。
ジーク王子が嫌いな訳ではないが、私は王妃なんて柄じゃないし、もっと自由に生きたいのだ。
しかし、世間の人々は舞踏会でのやり取りのせいで、ジーク王子が私を見初めたが、私もこの婚約に乗り気だと思っている。
世間の目がそうなっているのもあり、今の時点で私がジーク王子の婚約者候補を辞退するのは得策ではない気がしている。
できれば、ジーク王子側から、私を婚約者候補から外すように仕向けたい。
そんなことを考えていると、ルイス王子の口元に僅かに笑みが滲んだ。
「……もしかして、兄上と結婚したくないの?」
私が答えずにいると、彼は何かを企むような顔で続けた。
「じゃあ、僕と結婚しなよ」
あまりに突飛すぎて、言葉の意味を理解するのに数秒掛かった。
「……はぁ?」
思い切り聞き返すと、彼は何やら楽しそうにくつくつと笑った。
腹違いとはいえ、ジーク王子と笑い方が似ている、なんてどうでもいいことを考えてしまう。
「良いね、その感じ。今まで周りにはいなかったタイプだ」
「ルイス王子殿下ともなれば、どんな女性でもより取り見取りでは?」
「そうでもないよ。婚約者候補だって僕の意見なんて関係なく勝手に決められたし、ミルマ嬢が捕まらなければベルフェール公爵の圧力で彼女と結婚せざるを得ない状況になっていただろうしね」
自嘲気味な笑みと共に吐き捨てるルイス王子に、暗い影を見た気がした。
「でも、君のおかげでミルマ嬢は逮捕され、口煩い公爵も失脚した。これで僕も選択の自由が少しだけ広がって、感謝してるんだよ」
「……ベルフェール公爵は、ルイス王子殿下を次期国王にと推す革新派の筆頭だったはずですが……殿下は王位を望んでいらっしゃらないのですか?」
思わず尋ねると、彼はやれやれと言わんばかりに肩を竦めた。
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