第九章 浄化(1)
夜が深まった頃、私は準備を整えた。
暗殺の仕事のために仕立てた、黒く動きやすい服に着替えて、部屋のバルコニーから飛翔魔術を唱える。
向かうは王城。
浄化対象は広範囲にする事もできるが、王妃殿下に掛けられたような強力な呪いの場合は直接触れないと効果が出ない。
それに、私の今の魔力では広範囲といってもどのくらいの範囲に効果が出るのかわからない。直接行う方が確実だ。
城が遠くに見えてきたところで、姿と気配を消す遮蔽魔術を自分に掛ける。
王城には、国内一の魔術師であるセインが敷いた防御陣が張り巡らされている。
悪意を持って城に近づけば防御魔術が発動するだろう。
私は王妃殿下を救うために侵入するので悪意はないが、防御陣が反応しないとは限らない。
遮蔽魔術で姿と気配を消したとしても、相手はセインだ。察知される可能性はある。
私とセイン、どちらの魔力が強いか、それによって決まるといえる。
私は腹を括って王妃殿下の私室のバルコニーへ降り立った。
カーテンの隙間から中を覗き見る。
深夜だが、容体が急変した場合に備えてか、侍女が二人待機しているようだ。
待機していたのがジーク王子やセインでなかったことにほっとする。
私は透過魔術で窓をすり抜け、王妃殿下の枕元に移動した。城の防御陣も発動せず、侍女も気付いていない。
よし。いいぞ。
私はそっと王妃殿下の手に触れた。
「浄化魔術」
静かに唱えた瞬間、王妃殿下が淡い光に包まれた。
侍女の一人が気付き、短い悲鳴を上げて部屋を飛び出していった。セインを呼びに行ったのだろう。
王妃殿下の呪いは解けた。
もう大丈夫だろう。
体力は落ちているだろうが、それだけなら回復魔術で事足りる。
もう一人の侍女が王妃殿下に駆け寄ってきたのを避けて、私は部屋を出た。
もうこの場所に留まる理由はないので、急いでバルコニーから再び空へ舞い上がり、自邸に向かう。
その瞬間、目の前に雷が走った。
「っ!」
急停止し、辺りを見渡す。
天気は良かったはずだ。自然現象ではない。
と、城の一番高い塔の上から、こちらを見ている人物と目が合った。
「……ルイス、王子……」
遮蔽魔術を掛けている私に、当たりはしなかったものの攻撃を仕掛けた上に、今私の姿を捉えている。
どうすべきか逡巡したが、逃げるが吉と判断して背を向ける。
しかし。
「飛翔魔術!」
ルイス王子は空に飛び上がり、猛スピードで追ってきた。
「ひっ! 何で追いかけて来るのよ!」
逃げ切れず、空中で腕を掴まれる。
振り向くと、彼は私の顔を見て驚いた顔をした。
「レリア嬢っ? 城の上空で何を? というか、君は魔術師だったの?」
「ええと……どこから説明したら良いか……」
下手な誤魔化しは命取りだ。
私は父達に説明したのと同様に、自分が聖女として覚醒したことは伏せて、突然魔力が宿ったということだけ説明することにした。
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