第八章 聖女(1)
清涼な風が辺りを巡り、一帯の空気が澄んでいくのがわかった。
「……できましたね」
冷静なサーシャの言葉に我に変える。
辺りを見渡して、誰にも見られていないことを確認してほっと息を吐いた。
「……ねぇ、サーシャ、私が浄化魔術を使えるって、ジーク殿下が知ったらどうなると思う?」
そんなとこ、聞くまでもない。
しかし、認めたくなくて、別の可能性を求めて尋ねてみる。
「婚約どころか、即結婚となるでしょうね。王族にとって、聖女はすぐにでも手に入れたい存在ですし、うかうかして他国に取られたら最悪ですから」
やっぱりそうなるか。
私はがっくりと肩を落とした。
「サーシャ、私が浄化魔術を使えたことは絶対に秘密にして」
「わかりました。口止め料をください」
「金貨三枚」
「命に懸けて口外しないと誓います」
私が聖女として覚醒しても平常運転のサーシャにほっとする。
それにしても、困った。
聖女の力を秘密にするだけならば大して難しくない。
しかし、秘密にしたままでは、王妃殿下は助からない。
自分の保身のために誰かを犠牲にするのは嫌だ。
だが、だからと言ってすんなりジーク王子と結婚する道は選びたくない。
どうしたものか。
こんなことなら、あの魔具のペンダントを入手した時点で浄化魔術を試してみるんだった。
自分が聖女である可能性など微塵も考えなかったのだから仕方ないが、私は深々と溜め息を吐いた。
「お嬢様、聖女であることを隠して王妃殿下に掛けられた呪いを解きたいのでしたら、夜に忍び込んではいかがですか?」
サーシャの提案に、私は手を叩いた。
「その手があったか! そうするわ! とりあえず、目当ての女性は聖女じゃなかったと報告しなきゃならないから、一旦王城に戻るわね」
ついでに、王城で王妃殿下の私室までの侵入ルートを下見しておこう。
「サーシャは一度屋敷に戻って、迎えの馬車を王城に寄越して頂戴」
「承知いたしました。お気を付けて行ってらっしゃいませ」
サーシャが頷く。
私は素早く身を翻し、辺りに人の目がないことを確認し、飛翔魔術で王城へ向かった。
王城前の人気のない所で地上に降り、再び城門の門番に声を掛ける。
先程のことがあったので、門番は念のため変装を見抜く魔具を翳した上で、私に通って良いと言ってくれた。
「えっ、メルクリア侯爵令嬢っ?」
城門を潜ったところで、驚いた声が上がり振り返る。
そこには、この世界で対面するのは初めてのゲームキャラが立っていた。
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