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第六章 逆転(3)

 ジーク王子の後ろを歩きながら、私は胸騒ぎを感じていた。


 彼は無言のまま城に入ると、一階の廊下を進み、ある部屋の扉を開けた。


 私は足を止める。

 心臓が、どくどくと音を立て始めた。


 そこは、王城で仕事をすることもあるベルフェール公爵に与えられている執務室だ。


 入ってはいけない。本能が警鐘を鳴らしている。


「……どうした? 早く入りなさい」


 微笑む王子。その目を見て、先程の違和感が、一瞬で確信に変わる。


 私は彼から目を離さないようしながら、じりじりと後ずさった。


 今目の前にいるのは、ジーク王子ではない。偽物だ。


 何故気が付かなかったのだろう。


「アンタ誰?」


 侯爵令嬢としての立ち振る舞いや言葉遣いも忘れて、低く問う。

 ジーク王子の偽物は、すっと目を細めた。


「何のことかな?」

「それでジーク王子に化けてるつもり?」


 私の言葉に、偽物は唇を歪めて笑った。


「あと少しで連れ込めたのに、存外馬鹿ではなかったようね。レリア・ルーン・メルクリア」


 名を呼ばれた瞬間、身体の自由が利かなくなった。


「なっ!」


 気付くと、私の足元に魔法陣が浮かび上がっていた。

 魔法陣の解読はできないが、おそらく対象者の身動きを封じるものだろう。


 やられた。罠は部屋の中ではなく、廊下に張られていたのか。


 悔しさに歯噛みする。

 そんな私を見て、偽ジークは嘲笑する。


「いいザマね。私を出し抜こうとするからよ」


 偽ジークから放たれた声は、ジーク王子とは別の、よく知っているものだった。


「……ミルマか」

「下等貴族の分際で、私を呼び捨てにするんじゃないわよ」


 私の呟きを聞き取り、忌々しげに眉を寄せた直後、偽ジークの姿が揺らいだ。

 煙のように姿がぼやけ、代わってミルマが現れる。


「私のペンダント、返しなさいよ」

「何のこと?」

「とぼけても無駄よ。ペンダントの放つ魔力を辿ったらアンタに辿り着いたんだから、アンタが持っていることはわかっているの」


 ミルマの碧の目に、妖しげな光が宿る。

 口調も、普段は私に対してもそれなりに令嬢らしい丁寧語なのに、今は全く別人のそれだ。


 目の前のミルマは別人のなりすましなのか、それとも誰かに操られているのか、はたまたこれが彼女の本性なのか。


 いずれにしても今、自分の身動きが封じられているこの状況が危険なことには変わりない。


「素直に差し出さないなら、丸裸にするまでよ。第一王子の婚約者候補が、王城内で裸になるなんて、王子の立場も無くなって一石二鳥だわ」


 つかつかと歩み寄ってくるその下卑た笑みに、背筋を冷たいものが滑り落ちる。


 婚約者候補という立場はどうでも良いが、こんなところで丸裸にされるのは御免だ。


 幸い、体は動かないが口は動く。


 私は、小さく息を吸い込んだ。

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