第六章 逆転(2)
ペンダントを取られないように握りしめたサーシャは、空の左手を、何かを要求するように突き出した。
「このペンダントはお嬢様の頼みごとの範囲外でしたので。渡して欲しいのでしたら、追加で金貨二枚ください」
そんな気はした。
この守銭奴め。
サーシャは金が絡んだ依頼は絶対遂行するが、代金以上の仕事は絶対にしない。
今回も、頼んでないペンダントを盗ってきたので、追加料金を請求してくるだろうとは思った。
わかりやす過ぎてもはや笑えてくる。
「わかったわかった。特別ボーナスで三枚出すから早くそれを渡して」
私の言葉を聞き終える前に、サーシャは素早くペンダントを私の手の上に置いた。
「ありがとう。サーシャ、私ははこれを届けに王城へ行くけど、ディアスには行き先は教えないでね。金貨の支払いは無事に戻ってからよ」
「承知しました。お気を付けていってらっしゃいませ」
拍子抜けするほどあっさり頷いて、サーシャは私を見送ってくれた。
私は周囲を警戒しながら、足早に王城へ向かう。
ここは城下町の外れ。町の中心に位置する王城までは、歩いたら数時間かかる。
何処かに馬でもいれば良いのだが。
そう考えた瞬間に、今の自分は魔術が使えるということを思い出した。
空を飛ぶ魔術の呪文を、記憶の中から引っ張り出す。
「飛翔魔術!」
その刹那、ふわりと身体が宙に浮いた。
そのまま何もない虚空を踏み締めて、空へと駆け上がる。
馬より速いスピードで飛び、城を目指す。
と、先程の屋敷から程近い道端にディアスの姿を見つけて一瞬止まる。
上空から観察すると、一人ではなく向かいに誰かいるようだ。
「え、シルヴィ?」
ヒロインが、目をハートにしてディアスに何か言っている。
会話の内容までは遠過ぎて聞こえない。
ディアスの顔は見えないが、会話には応じている様子なので、もしかしたらヒロインの好感度が上がっているのかもしれない。
おっと、今はそれどころではない。
気を取り直して、私は再び加速した。
そこからは十分程度で王城の門まで到達した。
そのままジーク王子の部屋を目指しても良かったが、不法侵入扱いされても面倒なので、一旦門番に声をかけることにする。
門番は、馬車も従者もなく現れた私を最初はかなり怪しんだが、魔術による変身や変装を見破る魔具が反応しなかったので、他の兵士にジーク王子に私の訪問を知らせに行くよう指示を出してくれた。
ジーク王子からの回答が来るまで、門を潜ってすぐ傍にある門番用の詰め所で待つことになった。
数分後、ジーク王子が現れた。
「やぁ、レリア、急にどうしたんだ?」
にこやかな笑顔に、違和感を覚える。
しかし、ことの緊急性による焦燥感が、それを掻き消してしまった。
「王妃殿下に魔術を掛けた人物がわかったわ」
私が告げるとジークは目を瞠り、城に入るよう促した。大人しくそれについていく。
この時、門番も私の言葉を聞いて驚いていた。
だから、彼が持っていた魔具が光っていることに、誰も、彼自身も気が付かなかった。




