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第六章 逆転(1)

 廊下の先には登りの階段があった。

 何となく想像はできていたが、やはりさっきの部屋は地下にあったらしい。


 階段を登り切ると、厨房のような部屋に出た。

 どうやら扉の代わりに食器棚がスライドして、普段は地下室への階段は隠されているようだ。


 こんなの地下の隠し部屋を用意できるなんて、一体何処の屋敷の地下室だろうか。


 警戒しながら歩みを進める。

 しかし、屋敷の中は埃っぽく、しんと静まり返っていて人の気配はない。


 廊下の窓から外を見てみるが、敷地が広いのか町などの見慣れた風景は見えなかった。


 とりあえず玄関がありそうな方へ進む。

 玄関ホールもそこそこ広さがある。少なくとも爵位を持つ貴族の屋敷だったと思われる。


 ディアスはもうこの屋敷にいないようだ。

 私は音を立てないよう気をつけながら屋敷を出た。

 足早に門を目指して進む。


 門を出たところで、ようやくここが何処だかわかった。

 少し前に父が買い取った貴族の屋敷だ。城下町の外れにあり、メルクリア家の表の家業である武器の輸出入の商いで倉庫代わりに使うと言っていた。

 そこに秘密の地下室を見つけたディアスが、私を監禁することに利用した、ということか。


 兄の暴走にげんなりしながら、とりあえずメルクリア邸に向かう。


 と、道の向こうからサーシャがものすごい速さで駆けてきた。

 メイドとは思えない足の速さだ。


「サーシャ!」


 ディアスに何か言われて戻ってきたのか、と身構えたが、彼女は私の前で立ち止まると、軽く一礼した。


「お嬢様、ただいま戻りました。王妃殿下を呪った犯人がわかりました」

「え、嘘、早っ!」


 王国筆頭魔術師やジーク王子が血眼になって探していても見つけられずにいるというのに、ものの数十分程度で探し出したというのか。


 サーシャは探し物は昔から得意だったが、まさかここまでとは。


 驚く私をよそに、サーシャは辺りに人の目がないことを確認した上で、僅かに声を潜めた。


「匂いが消しきれていませんでしたので、辿ったらすぐ見つかりました。犯人は、ミルマ・イユ・ベルフェールです」

「はっ?」


 予想外すぎる名前に、思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。


 ミルマが魔術師だという設定などなかったはずだ。

 ベルフェール公爵家は魔術師の家系でもない。


「それは確かなの?」

「はい。万が一誤情報だった場合は、金貨はお返しします」


 サーシャがらそこまで言い切るからには本当なのだろう。


 これを告発すれば、王妃殿下を呪った罪でミルマは処刑、ベルフェール公爵家の爵位剥奪も免れないだろう。


「ミルマは魔術師だったの?」

「いえ、多少の魔力はあるようですが、魔術師になれるほどの素養はないようです。今回の呪いは、魔具を使用していました」


 魔力を持ったいるだけの人間なら、実はたくさんいる。

 その上で、ある程度の強い魔力がなければ魔術師にはなれないのだ。


 魔具は、魔術師でなくても扱える魔力が込められた道具だ。

 一般人ではそう簡単に手に入るものではないが、ベルフェール公爵家ならば、手に入れるのは難しくないだろう。


「……なるほどね」


 ミルマと公爵の狙いは、王妃殿下の崩御によりエリザ殿下を正妃にし、ルイス王子を国王に据えること、そして、ミルマがルイス王子の妃になることだろう。

 そうなればベルフェール公爵家の立場は今以上に強くなる。


「サーシャ、証拠は掴めそう?」

「はい、こちらに」


 言葉と同時に彼女が取り出したのは、大きな黒い宝石が填め込まれたペンダントだった。

 一目見てわかる。

 黒い宝石には、禍々しい魔力が込められている。


「はっ? 盗ってきたの? 嘘でしょ?」


 思わずぎょっとするが、サーシャは澄まし顔で答える。


「隙だらけでしたので……このペンダントの魔力を解析すれば、使用者がミルマ嬢で、対象として誰を呪っていたのかもわかります」

「とんでもないお手柄ね」


 感心し過ぎてもはやドン引きに近い。

 私がそのペンダントを受け取ろうとしたが、サーシャはさっとペンダントを握り胸元へ寄せた。

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