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【コミカライズ決定】悪役令嬢に転生したら正体がまさかの殺し屋でした  作者: 結月 香
1部 はじまり

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第五章 露見(5)

 私とサーシャだけになり、しんとした気まずい沈黙が部屋を包む。


 まさかディアスがこんな暴挙に出るなんて流石に予想外だ。


 何としてでもここから脱出し、ディアスの手の届かないところへ行かなくては。

 できればジーク王子からも逃れたい。彼のことは嫌いではないが、次期国王である彼の妃になるなど荷が重すぎる。


 小さくため息をつき、私は自分の両手を見つめた。


 血塗られた一族に生まれて、まだ、私の手は血に染まっていない。

 このまま、誰も殺す事なく生涯を終えたい。普通の人間として。


 目標が決まると同時に、ぐらついていた心が定まり、そのために何をすべきかに思考を巡らせる。


 私が穏やかにのんびり過ごすためには、殺し屋にならないことと、ディアスから逃れること、そしてジーク王子との結婚を回避することが不可欠だ。


 殺し屋にならないためには、私がメルクリア家から勘当されるか、ベルフェール公爵家とメルクリア家の関係を絶つか、そのどちらかしか方法はない。

 できれば父にも、こんな裏家業からは足を洗ってもらいたいので後者が良いが、そうするにはベルフェール公爵家の失脚が最も手っ取り早い。


 公爵家を失脚させるには、何かしらの不祥事を国王に密告するしかない。

 メルクリア家に暗殺の指示を出している事を告げれば一発だろうが、それをすると芋蔓式にこれまで父達が遂行してきた暗殺も露見し裁かれる事態になってしまう。それは避けたい。


 となると、昨晩思い至った、ベルフェール公爵が魔術師に命令して王妃殿下を呪った、という仮説を立証するのが良いだろう。

 しかし、あくまでまだ仮説であり、何一つ証拠はない。


 いや、だからこそ、私が犯人を見つけてベルフェール公爵との繋がりを吐かせれば、大手柄になる。

 そうなれば、ベルフェール公爵は捕まり公爵家は離散、犯人を突き止めた私に、国王陛下はきっと褒美をくださるだろう。

 その褒美に「平穏でのんびりとした人生」を願えば、ジーク王子との婚約もなかった事にできるのではないだろうか。


 そうすれば万事解決ではないか。


 私はぐっと拳を握り締めた。


 私のやる事は決まった。

 王妃殿下を呪った魔術師を探し出して解呪させること。

 そして黒幕がベルフェール公爵家である証拠を掴む。

 もしベルフェール公爵が魔術師と無関係であったとしても、王妃殿下を救うことができれば、国王とジーク王子に恩を売ることになる。それは無駄にはならない。


 よし、そうと決まれば魔術師探し出しだ。


 私は改めてサーシャを見た。


「ねぇ、サーシャ、頼みたいことががあるんだけど」

「枷は外せません。ディアス様のご命令ですので」


 食い気味に答えるサーシャ。

 一体いくら積まれたんだろうか。


「それは自分で何とかするから良いわ。王妃殿下を呪っている魔術師を探し出してほしいんだけど」

「……この状況でそんなことを調べさせてどうするんです?」


 首を傾げる彼女は本気で解せない様子だ。

 無理もない。自分は捕まっているのに、全く関係のない事件の犯人を探せと言っているのだ。そんなことをして何になるのか。

 本来ならここから脱出した後に犯人を探すべきであろう。


 しかし、今は時間が惜しい。


 王国筆頭魔術師やジーク王子が血眼になって探しているにも関わらず、なかなか尻尾を出さない犯人。


 しかし私は、サーシャならすぐ犯人を見つけ出してくれると確信している。

 彼女の能力は高い。特に探し物は大得意な上に、金が絡んだ時の彼女の集中力は群を抜く。

 

「今の私の状況なんてどうでも良いくらい急ぎの用件なの。やってくれるなら金貨五枚出すわ。今日中に見つけ出せたら更に金貨三枚プラスする。どう?」

「必ず今日中に見つけ出します!」


 キリッとした顔で強く言い切り、サーシャは足早に部屋を出ていった。


 後ろ姿を見送った私は、足枷に触れた。

 本来なら暗殺技術の応用で簡単に外せるのだが、どうやらこの足枷は魔具らしく、それが通用しない。

 私が暗殺技術を持つことを知っているディアスならば、当然の対応だろう。


 この手の魔具なら、魔術が使えさえすれば簡単に解けるのに。

 そう考えた時、ふと気付く。


 私がレリアに転生したのではなく、私の魂がレリアに宿った状態なのだとしたら、今の私には魔力があるのではないだろうか。

 夢の中のレリアは、魂が次元を超える瞬間に膨大な魔力を付与されると言っていた。

 ディアスの魔術失敗によって私の魂がレリアに宿ったのだとしたら、私の魂が次元を超えたのは十七歳の時だ。


 魔力がないと思って生きてきたレリアの記憶には、魔術の使い方はない。

 だが、前世の記憶には、ゲームの中でヒロインが魔術を使う時の呪文がしっかりと刻まれている。


 ものは試しだ。


「……解錠魔術アンロック!」


 唱えた刹那、カシャン、音を立てて枷が外れた。


「……マジか」


 思わず声に出てしまった。


 俄かには信じ難いが、どうやら私はこの度魔術として覚醒したらしい。

 それが周りに露見すると色々と厄介だが、この状況を乗り切るにはありがたい能力ではある。


 私はベッドから降り、唯一の出入り口である扉に歩み寄った。

 サーシャが飛び出していった際、故意か過失かはわからないが施錠はされなかったようだ。


 扉の向こうは、石造りの廊下だった。床も壁も天井も、全て石畳でできている。


 すんなり脱出に成功した私は、廊下の不気味さに若干気後れしつつも、そのまま歩みを進めることにした。

 

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