第五章 露見(4)
入ってきたのは、案の定というべきか、兄のディアスだった。
「やぁ、麗しい俺の天使レリア」
満面の笑みを浮かべてくるディアスに、背筋が凍る。
笑顔なのに、怖い。
「……お兄様、これは一体どういう事です?」
真顔で尋ねると、ディアスは申し訳なさそうに眉を下げた。
「俺の天使が他の男の婚約者になるなんて耐えられないからね。候補であるうちに、行方不明になってもらうことにしたんだ。ああ、ジーク王子は俺がちゃんと暗殺するし、レリアは俺が養うから安心して」
いかん。
コイツはシスコンな上にヤンデレだったか。
シスコンもヤンデレも、作品を楽しむ上では良いが、残念ながら前世の私はあまり好きではないキャラ属性だった。
「こないだは失敗したけど、ちゃんと昔の姿にも戻して可愛がってあげる」
「昔の姿? 失敗した?」
私が眉を顰めると、ディアスは少し慌てて弁解した。
「あ、いや、失敗と言っても何も起きなかったから大丈夫だよ」
「ディアス様は、お嬢様を幼少期のお姿に戻したかったそうです。先日、お嬢様の十七歳のお誕生日に合わせ魔術を実行されましたが、残念ながら失敗してしまったのです」
淡々と補足するサーシャ。
ディアスがロリコンだったことの衝撃と共に、今まで引っかかっていた何かが解けたような気がした。
「……十七歳の誕生日? まさか……」
見た目を幼少期に戻す魔術とやらに失敗したことで、前世の私の魂がレリアに宿ってしまったのではないだろうか。
魔術に失敗して本来の目的と全く異なる結果になってしまった、という事は聞いたことがある。
どういう理屈で、幼少期の姿に戻す魔術が、別世界の人間の魂を呼び寄せて憑依させてしまうのかは不明だが、もしそうだとしたら、夢の中でレリアが言っていた、レリア自身が転生者なら生まれながらに強い魔力を持っているはずなのにそうでないということも納得だ。
だが、ディアスは魔術師ではないはず。
「レリア? どうかしたのかい?」
ディアスが優しく私の頬に手を伸ばす。
推しキャラの甘い一面のはずが、私の心はかつてないほど冷めていた。
目の前にいるディアスは、もう私の推していたキャラクターではなくなってしまった。
クールなキャラだったはずが、シスコンでロリコンでヤンデレだったなんて。
シスコンでロリコンでヤンデレだなんて、前世の私が好きではない属性を詰め込んだようなキャラクターだ。
「……どうしたのかじゃないわよ。ふざけんなっつーの」
ぶつぶつと呟く私に、ディアスが首を傾げる。まだ何を言っているかまでは聞こえてないようだ。
私は顔を上げて、まっすぐにディアスを睨みつけた。
「妹を監禁して幼女に戻すって何よ! ド変態! 最低! 近づくな馬鹿!」
思いつく限りの罵詈雑言のつもりだったが、怖気が勝ってそれ以上出てこない。
それでも、愛してやまい妹に拒否された上に罵られるという効果は抜群だったようで、ディアスは露骨に傷ついた顔をして、ふらふらと部屋を出ていった。




