第五章 露見(1)
心臓が、早鐘を打ち始める。
繋がってはいけない糸が、繋がってしまったような感覚だ。
王妃が崩御した場合、側室から次の正妃を選ぶのが通例だ。
もしも、ルイス王子の母上であるエリザ殿下が正妃になったら、ルイス王子はジーク王子と同列の「正妃の男児」ということになる。
正妃の男児が二人以上いた場合は、必ずしも長子が次期国王になるとは限らず、実力の他、人望などを加味して後継者が決められる。
ルイス王子を次期国王にしたい貴族達からすれば、絶好の機会だ。
そして、この国で最もルイス王子を次期国王にしたがっているのは誰だ。
第二王子を王に推す変革派のトップは、三大公爵家の一つであり、メルクリア家に暗殺の指示を出すベルフェール公爵だ。
何故ベルフェール公爵がルイス王子を推すのかというと、実は彼の母であるエリザ殿下の生家が、ベルフェール公爵家だからである。
エリザ殿下は現ベルフェール公爵の姉に当たるらしいが、公爵は幼い頃に公爵家に後継者として養子にされた分家の血筋のため、エリザ殿下と直接血の繋がりはないと聞いた。
だから、自身の娘であるミルマをルイス王子と結婚させ、ルイス王子を国王へと擁立することでエリザ殿下を王妃と同格にし、王妃と王太子妃の生家としてベルフェール公爵家の権力強化を図ろうとしているのだ。
つまり、現王妃殿下亡き後、ことの運びようによって最も得をするのはベルフェール公爵だ。
脳裏に浮かぶのは、穏やかな笑顔の初老の男。
以前会った際、優しく声を掛けてくれたのを覚えている。
あの人好きのする印象の公爵が、そんな卑劣なことを企むようには見えないが、少なくともあの男はジーク王子の暗殺をメルクリア家に依頼するような男だ。陰で魔術師に王妃殿下を呪わせようとしたとしても不思議ではない。
もしもベルフェール公爵が王妃殿下へ呪いを掛けている魔術師と繋がっているとしたら、彼は相当焦っているということになる。
メルクリア家にジーク王子暗殺の指示を出したにも拘らず、その結果が出るより早く、別のルートからルイス王子が次期国王になる可能性を高めようとしている、ということになるのだから。
勿論、まだ王妃殿下を呪っている魔術師がベルフェール公爵と繋がっているという確証はない。
変に先入観を持ってしまうと、思考が偏り大切なことを見落としてしまう可能性がある。常に視野を広く持ち、様々な可能性を頭の中で検証していかなくては。
そう自分に言い聞かせて、一度深呼吸する。
その時だった。
すん、と妙に甘い香りが鼻先を掠めた。
咄嗟に鼻と口を袖口で覆う。
この匂いは、メルクリア家でも暗殺時によく使う催眠効果のある香だ。
まずい、とそれに気付いた刹那、私の意識は途絶えてしまった。




