第四章 秘密(5)
その夜、ふかふかのベッドに潜り込んだ私は、天蓋を見つめながら、思考を巡らせた。
私が知っているゲームのシナリオと、今私がいるこの世界の相違点を整理する。
その一、暗殺というメルクリア家の家業。
そのニ、ディアスのシスコン。
その三、ジーク王子の性格と実力。
その四、王妃殿下の体調不良と呪い。
そして、悪役令嬢であるレリアは、私という異世界の人間が転生した人物であるということ。
ここまでくると、この先シナリオ通りに進むのか不安になってくる。
ヒロインがディアス攻略ルートに進んだ場合、考えられるエンディングは三つ。
一つ目はノーマルエンド。好感度が四割から九割未満の場合で、ディアスとの距離が縮まり、彼の甘々な一面は見られないが、結婚はするというエンディング。
二つ目がバッドエンド。好感度が四割未満の場合で、ディアスの心を開くことができず、聖女にもなれず、ブランシュ家の令嬢として別の貴族との結婚が決まってしまうという結末。
三つ目がハッピーエンド。好感度が九割以上で見られ、勿論結婚するし、クールキャラのディアスが微笑んだり、少し照れながら甘い台詞を言ったりするシーンがあるという仕様だ。
ただ、あくまでもこれらのエンディングは、ヒロインであるシルヴィのもの。
悪役令嬢である私に焦点を絞るならば、一つ目と二つ目の場合、エンディングに関わってこないので、私自身がどうなるのかはわからない。
三つ目の場合のみ、ヒロインに対して兄を取られたくない一心で幼稚な嫌がらせをした事がディアスに露見して叱責されるが、あくまでも「兄に叱られる」だけなので、国外追放だとか処刑だとかのような物騒なことにはならない。
つまり、いずれにしてもヒロインがディアス攻略ルートに入った時点で、悪役令嬢もジーク王子もストーリーの核心には関わってこないのだ。
そして、ヒロインが聖女として覚醒するには、好感度が七割を超えた時点で発生するイベントで、選択肢を誤らない事が条件になる。
そこまで考えて、疑問が浮かぶ。
この世界で、あのディアスの、ヒロインへの好感度が上がることなどあるのだろうか。
妹以外の女になど微塵も興味を示さないあの男が、ヒロインに対して好感を持つという様子が想像できない。
もしそうなったら、ヒロインは聖女として覚醒できないということになる。
聖女もおらず、王妃殿下に掛けられた呪いがジーク王子含む王国の魔術師達で解呪できなかった場合、その後どうなるかなど想像に難くない。
解呪できないならば、王妃殿下に呪いをかけた魔術師張本人を探す必要がある。
王妃殿下を呪った人物。強固な守りの魔術が掛けられているはずの王族を呪うことができるような、強い魔術師。
待てよ。そんな強い魔術師が、王妃殿下を呪った動機は何だろう。
もしも王国の支配が目的だとしたら、王妃の前に国王や王子を狙うだろう。
それだけ強い魔術が使えるのならば、その気さえ出せば国一つ滅ぼすことだって可能なはずだ。
だがそうせず、王妃一人を呪ったのは何故か。
王妃殿下が崩御したら、この国はどうなる。
そうなった時、得をするのは誰だ。
それを考えた時、一つの仮説に辿り着いて、身体中の血の気が引いた。




