表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/94

第一章 標的(1)

 ある朝、麗らかな日差しとは裏腹に、私は頭を抱えていた。


 前世の記憶が正しければ、明日の夜に王城で開催される舞踏会でヒロインが登場するはずだ。


 しかし目下の問題はヒロインの登場ではなく、私の職業の方だ。


 私、レリア・ルーン・メルクリアはメルクリア侯爵家の長女で、幼い頃から殺人術を叩き込まれた殺し屋だった。

 とはいえ、実はまだ一人も殺していない。

 メルクリア家のしきたりで、十七歳にならないと仕事に出られないからだ。


 だが、私は先月十七歳を迎えてしまった。

 次に暗殺の依頼が入れば、きっと私が出向くことになるだろう。


 これまでレリアとして生きて来た人生では、自分が殺し屋として生きることに何の疑問も抱いてはいなかったし、早く一人前になりたいとさえ思っていた。

 しかし、前世は日本という平和な国に住んでいた冴えないアラサーOL。当然殺人なんてした事ないし、殺人事件の話を聞くだけでも嫌悪感を覚えていたほどだ。


 そんな私が、人を殺めるなんて考えたくもなかった。

 前世での感覚が心の奥にこびりついて、暗殺の仕事を請け負うことを恐れてしまっている。


 レリアの人格と前世の人格とが、心の中で葛藤している。


 メルクリア家に暗殺の依頼を出すのは、国内三大公爵家の一つ、ベルフェール公爵だ。ベルフェール公爵家とメルクリア侯爵家は昔から蜜月関係で、公爵家以外にメルクリア家の家業を知る者はいない。


 そしてベルフェール公爵は、次期国王にルイスを推している。


 そこに思い至って、嫌な予感を覚えた。


「……まさか、ね」


 小さく呟いたその時、私専属メイドのサーシャが部屋に入ってきた。


「お嬢様、侯爵様がお呼びです」

「……すぐ行くわ」


 私は父の書斎へ向かう。

 扉をノックし、返事を待って部屋に入ると、そこには大きな革張りの椅子に腰掛けた父と、机越しに対峙する兄の姿があった。


 私の兄、ディアス・レイ・メルクリアは今年二十歳になり、精力的に依頼をこなす敏腕暗殺者だ。

 見た目は私と同じ銀髪と紫の瞳を持った美青年で、ゲームのサブストーリーでは攻略対象となりうるキャラクターである。


 そして何を隠そう、前世の私の推しキャラである。


 どうせ転生するならディアスの妹ではなく、彼と結ばれる可能性があるキャラが良かったと最初こそ思ったが、ゲームでは描かれなかった彼の裏の性格を知ると、妹で良かったと思い直した。


「お呼びでしょうか、お父様。お兄様、ごきげんよう」


 挨拶をすると、普段は氷のように冷たい表情を崩さないディアスが、にっこりと微笑んだ。


「やぁレリア、今日も可愛い私の天使」


 そう、ディアスは妹であるレリアを溺愛しまくるとんでもないシスコンだったのだ。


 推しキャラにそう言われるのは悪い気はしないが、元々氷の貴公子と呼ばれるようなキャラであったディアスが好きだったので、内心は複雑だ。


「依頼が来た。事前の取り決め通り、今回の依頼はレリアにやってもらう」


 そう話す父、アルベルト・リー・メルクリアの表情は暗い。

 嫌な予感がむくむくと膨らんでいく。


「わかりました。標的は?」


 私の問いに、父は一度瞑目し、小さく息を吐いた。


「……ジーク・ウル・ウェスタニア……第一王子殿下だ」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ