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【コミカライズ決定】悪役令嬢に転生したら正体がまさかの殺し屋でした  作者: 結月 香
1部 はじまり

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第三章 本性(5)

「男の九割は女が好きだろ。男が好きな男の方が珍しいのに、何言ってるんだ?」


 本気で理解できないと言わんばかりの態度に、私は自分が間違っているかのような気分になった。


「……いや、そういう意味じゃなくて……」

「それに、次期国王が女嫌いだったら、後継ぎが生まれないだろうが」

「だから、恋愛対象として女が好きかどうかという意味じゃなくて……」


 女好き、の意味をどう説明したものか、必死に言葉を探す。


「……ああ、もしかして、側室の心配しているのか?」


 首を傾げた後、王子はにやにやとした笑みを浮かべる。


「俺が側室を持つのが嫌なのか?」

「は? 別にそれはどうでも良いけど」


 思わず食い気味に答えてしまった。

 王子は何故か楽しそうにくすくすと笑っている。


「はは、やっぱりお前は面白いな」

「褒め言葉として受け取っておきます」

「……お前が本当に望むなら、側室なんて持たないんだけどな」


 王子がぼそりと呟いたその言葉を、私は聞き逃した。


「え?」

「いや、何でもない。それより、そろそろ腹減ったな。昼飯、食べに行くぞ」


 言うや、王子は私の手を掴んだ。


「食べに行くって何処へ……っ?」


 尋ねかけた言葉が途切れる。

 ふわりと体が浮いて、宙へ舞い上がったからだ。


「ひゃっ!」


 短い悲鳴が掻き消え、王子に引っ張られるまま、町の方へ飛んでいく。


「飛んで行くのっ?」

「その方が速いからな」

「馬車はどうするの?」

「クラッドがちゃんと馬車を町まで運んでくるから心配いらない。お前は昼に何を食べるかだけ考えていろ」


 王城に向かうのかと思われたが、彼は町の外れにふわりと降り立った。


「何が食べたいか決まったか?」

「まさか、町で食べるの?」

「ああ、食べたいものが決まってないなら、俺の好きな店に行くぞ」

「殿下の好きなお店って……」


 言いかけると、彼は小さく何かを呟いた。

 その瞬間、髪の色が褐色に、瞳の色がグレーに変わった。

 クラッドもそうだが、褐色の髪とグレーの瞳はこの国で一番多い色だ。


「殿下じゃなくて、この姿の時はジルと呼べ」

「……まさか、今までにもこうして町に?」


 慣れた様子で町に入っていく王子に尋ねると、彼は振り返って笑った。


「自分がいずれ王になる国だぞ。ちゃんと町の様子を見ておくのは大事なことだ。さ、行くぞ。逸れるなよ」


 さっと私の手を取り、軽い足取りで進む。


 今見せた笑顔こそが、彼の本当の姿な気がした。

 怠惰で女好きだという噂は、ある意味では正解だったが、それは彼の表面だけを掬い取って歪曲して表現しただけで、本質は全く違う。


「……王子ともなれば勉強や公務で忙しいんじゃないの?」


 小声で尋ねると、彼はまたあの得意げな笑みを浮かべた。


「俺は一度見聞きしたことは忘れないからな。歴史なんて本を読めば充分だし、毎日授業を受ける必要なんかないんだよ。公務だってそう毎日ある訳じゃない」


 何度同じ授業を聞いても理解できない凡人が聞いたら発狂しそうな台詞だ。

 そんな言葉をあっけらかんと放つ彼に、前世でもあまり勉強が得意ではなかった私はもはや嫉妬に近い感情を覚える。


「あ! ジル!」


 声がして振り返ると、横から少女が飛び出して来た。

 私と同年くらいの彼女は、王子に抱き付かんばかりの勢いで距離を詰めてくる。


 彼女は私を見て、心底驚いた様子で声を上げた。


「えー! ジルが女の子連れてる! 私とは何度お願いしたってデートしてくれないのに!」


 むぅとむくれる彼女に、王子は軽く笑って手を振る。


「悪いな。俺はいい女としかデートしないんだ」

「いつもそればっかり! 私はいい女じゃないって言うの?」

「お前は悪くないが、俺にとってのいい女は、こんな女だからな」


 そう言って臆面もなく私を指す。

 彼女が私に何か言いたげな顔をしたが、ジルがそれを制して歩き出した。


「すまんが、デートの邪魔はするなよ。またな」


 スマートなエスコートに、思わずドキリとする。


 私の推しキャラはゲーム中のディアスであり、元々ジークにはあまり興味がなかった。

 しかしこの世界で、シスコンというディアスの知られざる一面を知ってしまい、熱が冷めてしまった。

 そこへ怠惰で女好きだと思っていたジークの本性が、実は一途で目標に真っ直ぐな性格だったという、もはやハプニング。


 そう、これはハプニングだ。

 騒ぐ心臓を抑え込みながら、私はジークに気づかれないように紅くなる頬を押さえた。


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