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目つけもの


 ケインは執事と管理人を集め、リーアの事業計画説明させた。そして説明を聞き終わると、外にいるという妻を探して領地に降りた。しばらく探していると、何人もの領民が話しかけて来た。


「侯爵様、仕事をありがとうございます。これで妻と子供を食べさせることができます」

「侯爵様が結婚して領地に目を向けて下さるようになって、本当によかった」

「子供がたくさん食べられて嬉しいと泣くんですよ。これも全て侯爵様のおかげです」


 ケインはなんとも返せず、適当に「うむ」と返して「妻を探しているから」というのを言い訳にして領民達から逃げた。そして何人かに教えられて、開拓工事の現場から少し離れた場所にある、明るいオレンジ色のラグを広げた場所を見つけた。妻はそこでくつろいでお茶をしていた。側には数人のメイドが立ち従っており、まさに貴族女性のピクニックだ。

 ケインはこの女なら領民に混じって作業していると思ったのだが、考え違いだったようだ。

 後ろ側から歩み寄って声をかけた。


「リーア、君は俺を破産させる気なのか」


 その声にリーアは優雅に振り返って微笑んだ。


「あら、もう帰って来てらしたんですね。なんの用でお城に呼ばれていたんです?」

「もちろん君の使った魔法についての説明だ。国中が光ったからな」


 ケインはリーアの隣にどさりと腰を下ろした。彼女の前には口の開いたバスケットが置いてあり、サンドイッチとポテトフライが詰められていた。ケインはそれを無遠慮に掴み取り口に入れる。考えてみれば屋敷に帰ってきてから初めて口にした食べ物だった。いいかげん腹が減りすぎて忘れていた。

 リーアは城での話を続けた。


「私の魔法で光ったのは世界中の間違いでしょう」

「ああ、そうらしい」

「お城で怒られたんですか?」

「……まあ、そうかもしれないな」


 リーアはそれを聞いてくすくすと笑った。


「結婚したら私のしたことでも、怒られるのは貴方になるのね、楽でいいわ」

「だが俺は君に怒るがな」

「怒るのは私よ」

「……確かに」


 ケインは妻の顔を見た。この女はとても怒りっぽいのだ。あの地獄の様な結婚式を思い出すと今でもうんざりする。


「で、君は有言実行していると言うわけか。君は領民と一緒になって働いていると思っていたよ」


 リーアは吹き出した。


「貴方って割と私のことをわかっているわね。でも無理なのよ。私ってあなたの使用人達に、とーっても愛されてるの。だから肉体労働なんてさせてもらえないみたい。女王様みたいな扱いなんだもの。それに最近は領民達も影響されて、みーんな私を崇拝してるの。だから私はみんなの理想の侯爵夫人でいてあげなくてはいけないのよ」

「なるほどね」


 さもありなんとケインは工事を眺めた。視線の先には生き生きと働く人々がいる。これを実現したのは彼女なのだ。さっき領民たちに捕まって聞かされた褒め言葉の送り先は全てこの女なのだから。

 彼女と違い、ケインはこれまで問題さえ起こらなければ領地に変化は必要ないと思っていた。しかしこうやって自分の目で見てやっと実感した。これまでの状態を維持するだけでは賄えないほど人口が増えていた。そんな事に全く気づかなかった。人は増える。当たり前だ、結婚すれば子供が生まれるのだから。

 ケインは自分の騎士としての人生ばかり……要するに楽しいことばかりにかまけて、領地の人々のことなど後回しにしていたのかもしれないと、やっと気づき始めた。


「森を開いてるんだけど、とりあえず何も思いつかないから開拓がてら広場を作ってみるつもりなの。何かあった時、人が集まれるでしょ?」

「とりあえず……? この先いくら金がかかると思っている。その金はどこから出ると?」


 いつも通りのわるい虫だとはわかっていたが、つい嫌味っぽくしゃべってしまう。ケインは喋りながら罪悪感を感じた。

 今日はいかに自分が嫌な男か、誰もが教えてくれているようだ。


「あなたの土地は土が良く、なんでも育つと聞いたわ。だからそちらの方もきちんと管理させて収益を伸ばすつもり。あなたは騎士生活ばかりで農地経営は手を抜いていたみたいだから、すぐに結果が出せるはずよ。徐々に農地も増やせるし」


 なるほど確かに。ケインは頬が熱くなる気がした。


「……だが、いくら君でも天候は操れない。農作物は天候次第だ」

「でも私の魔法、実は土地には影響できるの。回復って、いい能力だと思わない?」


 リーアは優越感の滲んだ顔でケインに流し目を送る。

 また自信満々だな。ケインはバスケットの中身を食べ尽くしたので立ち上がった。


「……では長雨の時は声をかけてくれ。俺も魔法で農地を囲むドームくらいは作れるのでね」


 こちらもリーアを真似してニヤリと流し目を送る。

 しかし「まあ素敵」とつぶやいたリーアの目はすでに焦点を外し、ケインを見ていなかった。頭の中で忙しなく経営プランを見直しているのかもしれない。

 ケインはこの結婚で面倒な嫁をもらったと思っていたが、こんなところで能力を発揮しだすとは意外だった。


 この妻は意外な目付け物かも取れない。

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