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何でこうなった


「何言ってるの?」


 リーアたちは豪華な部屋に案内され、豪華な食事でお腹をいっぱいにして、今日はいい気分でゆっくり眠れるはずだった。

 それなのに、またこの男が現れてリーアの平穏は壊された。

 リーアは怒りをにじませ、眉間を押さえながら目の前に立つケインに聞き返した。


「もう一度言ってくださる?」

「いいだろう、もう一度言う。明日俺の領地に行く。そこで結婚式を行う」

「へー、誰の」

「俺と君だ。俺たちは結婚することになった」


 あんまりな答えにリーアは呼吸困難になるかと思った。

 こんなに訳のわからないことを言われたのは人生の中で初めてだ。

 ある日突然、騎士の一群が家に押し寄せ、罪人のように王都に運ばれ、国王に会わされ、やっと解放されたと思ったのに、今度は結婚ですって!? 一体自分が何をしたと言うのだろう! ただ人助けをしただけなのに!


「だから、何言ってるのよ!!」

「これは王命だ」


 王命!!

 リーアは絶句した。

 そんな言葉を誰かの口から聞いたのは初めてだった。


「ふざけないでよ! 何までそんな話になるのよ!」

「君の力がそれだけ貴重だと言うことだ」

「王命なんて、何で王様が私の結婚を……あなたのせいよ!」

「俺だってこんなことになるとは思っていなかった。こんな小娘と突然結婚させられるとは」

「だったら何とかしてよ! あなたも嫌なんでしょ!?」

「王命に逆らう気はない」


 全く聞く耳を持たないケインにリーアは歯噛みした。

 結婚、しかもこんなに無礼で、ムカつく、嫌な男とですって!?

 どうにかして、何とかこの運命から逃れなければ。その時部屋のソファーで驚いて目を丸くしている両親が目に入った。


「私の父は子爵なのよ! 貴族じゃなきゃ釣り合わないに決まってるでしょ!」


 リーアは勝ち誇ったように言い放った。

 実際は貴族の嫁になることなど考えたことはなかったが、この言葉で何とかなると飛びついたのだ。


「俺は侯爵だ」


 リーアの敗北は決まった。


「リーア、王命なら仕方ないよ。絶対王政とはそういうものなんだ」


 父のアドバイスはなんの心の支えにもならなかった。

 そうして二人は結婚式を挙げたのだった。


+


 結婚してしまった……。


 今日はリーアの結婚式だった。

 式の後もずいぶん暴れたのだが、どうやらこの結婚を無効にするのは諦めるしかなさそうだった。

 なぜかと言うとこの屋敷の使用人達が揃っていい人すぎたからだ。

 今日は出会う使用人全員に嬉しそうにお祝いを言われ、嬉しそうに未来を語られ、屋敷のこれからを相談されたりした。全員が全員、リーアをとても好意的に受け入れ、喜んでいた。その姿を見るたびリーアは自分の態度を後ろめたく感じ、恥ずかしくなっていった。

 そしてそんな使用人の姿に触れるたび、だんだんとこれもいい事なのかもしれないと思い始めてしまった。こんなにいい人たちが、リーアが侯爵夫人になったことを喜んでいるのなら、この結婚は良い事なのかもしれない。

 ケイン一人を我慢するだけで、この屋敷に勤めるいい人たちみんなを幸せにできるだ。だったら試してみるべきだと勇気が湧いた。


「もういいわ。運命を受け入れましょう」


 ベッドの上で仰向けになって天井に呟く。

 きっとケインだって、もしかしたら悪い人じゃないかもしれない。こんなによくできた使用人に囲まれ、騎士団長にまでなっているんだもの。きっとそのはずだ。


「だから、今夜の初夜も受け入れるわ……」


 今はまだ昼間だが、リーアは初夜について考えた。

 初夜の知識というのは結婚前に母に教わる物なのだが、リーアには教えてもらう機会は一切無かった。

 なぜなら、王都に連れて来られた時と同じように家族三人で馬車に閉じ込められていたからだ。その間、いくら教えてもらおうと頑張っても、母は父の目を気にして「後でね」「後でちゃんと教えるから」とはぐらかした。よほど気まずい事らしい。

 結局解らずじまいで馬車から下ろされた後は、侯爵家のメイドに囲まれてドレスを着せられ、すぐ教会に引っ張っていかれてしまった。

 式が終わった頃には、両親は疲れ切って部屋に引っ込んでしまい、もう二度と出てこなかった。


「何とかなるのかしら……」


 そんな事を考えているうちにリーアは寝こけていたようだ。式で暴れた疲れが出たのかベッドでたっぷり寝って、目が覚めた時には窓の外は真っ暗だった。


「あー寝過ぎたわ、もう夜なのね」


 呟きを聞きつけてメイドが現れた。室内に控室でもあるらしい。


「奥様、夜の食事はどうされますか」

「今日はもういいわ、紅茶だけ入れてくれる?」


 紅茶を飲んで寝巻きに着替えて髪を梳かしてもらい、ぼんやりくつろいでいると、室内にある扉にノックの音が響いた。


「はーい、誰?」

「私だ」


 扉を開けて入ってきたのはケインだった。

 そうか、初夜があるんだったわね。一度眠ったせいでリーアの頭からはすっぽり抜け落ちていた。


「夜伽を」

「夜伽? あなた添い寝が必要なの?」


 初夜じゃなくて? と頭にハテナが浮かぶ。


「……今日私たちは結婚した」

「そうね」

「今日は初夜だ」

「そうね」


 ケインは少し黙って厳つい顔の眉間に皺を寄せて、もっと厳つくした。今のやりとりに何か気に入らないところがあったらしい。


「……母親にやり方は聞いたか?」

「聞くタイミングがあった?」

「馬車の中でずっと一緒だっただろう」

「父がいる場所では話せないと言われたわ」

「……それもそうか」


 ケインが引かないようなので、リーアはイラついて言った。


「なに? 今から母に聞いてくる方がいいのかしら?」

「いや、私が教えられるから行かなくていい」

「あなたが? 男のくせに」


 リーアは笑った。教えられるのは母親だけだと聞いているのに。

 ケインは眉間に皺を寄せて困惑を顔に表した。


「……男だからだと思うが」

「あなたがきちんと説明できる人だとは思えないけど。毎回下手な説明で私を振り回してばかりじゃない」

「大丈夫だ」


 そしてケインはいつも通り上手く説明せずに行動した。


+


「痛い……もういや。なんなのよあれ」


 翌日、リーアは疲れ切った顔でずっとソファーにいた。寝不足で顔色が悪いが、体の痛みが気になって上手く居眠りする事もできない。


「昨日の夜は大騒ぎだったそうですね。みんな奥様がきちんと純潔だったので喜んでいましたよ」


 リーアが初夜の痛みで叫んだり暴れたりしたのをみんな聞いていたらしい。恥ずかしくてリーアは顔を赤くした。


「私はこの屋敷のみんなを喜ばせてばかりのようね」

「もちろんです! 待望の奥様ですもの」


 メイドは目をキラキラさせる。リーアはそのテンションに付き合う元気がなかったので返事をしなかった。


「大丈夫ですよ。みんなで今後のことを心配していたら、こういうのは段々良くなって行くものだって家政婦長が言ってました」

「段々? と言うことは何度もあれをやるの?」

「もちろん毎晩でしょう! 旦那様は体鍛えてますから。体力満点で、すぐに子供を授けてくれますよ!!」


 メイドは得意そうに力こぶを作るポーズでウインクした。


「嘘でしょ……」


 リーアはげっそりした。

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