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卵発見

 その後、多少時間をかけて探し出した親の魔物は、すでに自分の卵を取り返して新しく巣を作り終わっていた。気は立っていたものの、こちらの治療を受けてくれ、餌をやって離れた。

 そしてそこから少し言ったところに、隊に気づいてか密猟者が慌てて逃げる際に置き去りにした荷車に、三つの卵があった。

 非常に大きな卵で、片腕では収まらないサイズだった。全て同じ魔物の卵らしい。


 ケインたちは集まってそれを見下ろした。

 その表情は硬いもの、青ざめているもの、ヒクついているものなどさまざまであるが、好意的なものは一人もいない。


「うわぁ、これやばくないですか。随分でかいですよ。親は一体どんなサイズのやつだか」

「確かにな……」

「大蛇か、大鳥か、大トカゲ……なら、ドラゴンの可能性もあるか……」

「親が探してないといいですけど」

「ここまでデカくて、人間が持ちだせたなら、おそらく親はここにいないんだろう。……いや、そう思いたいな」

「ええ。で、どうします」

「ここに残していけばまた無法者どもが取りに来るだろう。持っていくしかあるまい」

「ですよね……」

「はーーーーっ騎士舎が襲われないといいですけど」

「卵は研究所の方に渡す。俺たちでは卵を孵す方法はわからんからな」

「いいんすか?」

「何が悪いんだ?」


 ケインは首を傾げた。



「いいわけないだろう?」


 ケインの目の前にいるのは研究所の所長、アーセスだった。

 彼は若いが仕事のできる男で、頭も非常によく、ケインの学園時代の二つ下の後輩だ。

 若すぎて軽く見られることもあったが、その全てを実力で薙ぎ倒してきた男でもあり、非常に気が強かった。

 そして歯に絹着せない男だった。


「騎士団長殿、お前は馬鹿なのか」


 所長が目の前に並べられたでかい卵を指してイライラと声を出す。


「なぜここに持ち込む? 卵だぞ!」

「……ここは研究所だったはずだが」

「ここは研究所であって小児病棟でも育児施設でもない! 私たちの仕事は研究であって、魔物を育てることではない。この卵を割って、中身を解剖していいなら話が違うが、そんな権利がない以上、ここでそれを預かる義理はない。大体、何が生まれるかわからない卵をここで孵化させてどうなる、騎士団の君らと違って私たちは非力だ!研究員を危険に晒せと言うのか?」


 偉い剣幕でしゃべるアーセスに怯み、ケインは押し黙った。


「いや、そんなことには……」

「なぜ、言い切れるのですかね? ケイン騎士団長」

「……」


 ケインは騎士舎に持って帰った。


+


「お帰りなさい」

 ケインは転移で屋敷に帰ると出迎えた妻の顔を見て、騎士たちに与えた『贈り物』の質問の答えを聞き逃したことに気がついたが、今更どうしようもない。

 とにかく二人の仲を良くするため、お義理できかれた「今日はどうだったの?」という質問に答えることにした。


「アレンストに魔物の目撃情報が入り、調査に行ってきた」

「アレンスト……そうなの。危険はあったの?」

「わたしたちは遭遇しなかったが、密猟者がいた。魔物の卵を盗もうとしたらしい。魔物に追い払われていたがな。すでに盗みを働いていたようで三つ親のわからない卵が置き去りにされていた」

「まあ、なんて可哀想なの! 卵は返したの?」


 ケインは首をふる。


「巣がどこかわからない。置いていってもまた盗まれるだけだ。今は騎士舎に仮置きしている」

「誰が育てるか決まっているの?」


 ケインは肩をすくめた。


「さあな」

「ねえ、それ、私が育てたいわ」


 リーアが言った言葉に、ケインは仰天した。


「何を言っている。君は戦うことなどできない、か弱い女だぞ。魔物のそばにいるなんて、相手が卵であっても許せるものではない。帰った赤子に餌として食い殺されるのがオチだ。馬鹿げたことを考えるのはやめろ」


 早口で命令すると、リーアの目が挑戦的に光った。


「私、動物に好かれるの。大丈夫よ」

「動物に好かれる、ね。私の愛馬のトリスタンや厩舎中の馬に好かれたって、魔物に好かれるとは限らない」

「お父様の領地に魔物が10年間現れなかったのだって、私が言ったからなのよ!」

「また自慢か。君は馬鹿にされたと思うと自分の能力を証明しなくてはいられないらしいな。だが君の能力はその厄介な回復魔法だけで十分だ。それ以上証明の必要はない」


 ケインは座っていたソファーから立ち上がり、ムキになって言い返そうとする妻を無視した。


「聞いてっ……ちょっと!」

「すまんが俺は腹が減った。時間もちょうどいい、話は終わりだ」

「もういいわよ! この冷血漢!」


 二日後、リーアは屋敷からいなくなった。

 執事の力を借りてタウンハウスを借り、さっさと移り住んだのだ。

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