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贈り物は何がいい?


「奥方にする贈り物とはどんなものが良いと思う」


 ケインは移動中の馬の上ですぐ後ろを走る自分の若い雑用係に話しかけた。

 現在ケインを含む第一隊はアレンストの西側からの魔物の目撃証言を偵察しに向かっている最中である。

 隊の人数は騎士20人、雑務を担当する10人で構成され、移動手段は馬で、ほぼ全員自分の馬に騎乗し、後方に救護用の馬車を連れている。


 先頭集団をいくケインのそばに付き従う雑用係のリオはまだ13歳だ。基本業務は雑務と勉強。今回はケインについて記録係をする。尊敬するケイン団長のそばで実地の経験を踏むチャンスに、リオは興奮と緊張を感じていた。

 そんな時に飛んで来たケインの質問だ。

 リオは質問についてよく考えたが、まだ子供で、仕事に全集中力をささげている13歳の男の子に、女の事などわかるわけはなかった。

 リオは戸惑い、質問を返した。


「贈り物ですか、奥様は何が好きなんですか?」


 馬も自身の身長も高いケインを見上げながら聞く。

 ケインは大きな馬の背で緊張もせずゆったりと乗っている。


「何が好きか……わからんな」

「ではどんな食べ物が好きでしょう」

「さあ、それはシェフに聞かないとな」


 リオは母親が好きだったものを思い出してパッと顔を輝かせた。


「では花は?」

「私の屋敷には花などない」


 ケインが興味もなさそうに切り捨てる。リオはがっかりした。


「……色の好みは」

「色に好みなどあるのか?」


 リオは絶望した。ここまで団長が気が利かないなら、子供のリオにはなんのアドバイスもできない。

 好きなものが一つでも出てきたら「ではそれを」と返そうと思っていただけなのだ。


「僕は子供なので、今はまだ良いアドバイスができないと思います」


 リオは自分が失望されるのを覚悟してそう告げた。安請け合いするよりも正直な方がいいはずだ。

 ケインは「なるほど」と自分の顎を撫でていた。リオは無意識のうちにぎゅっと瞑っていた目を開けた。「使えない」と罵られなくてよかったと胸を撫で下ろした。ケイン団長はやっぱり懐が広く、本当にいい人だ。

 ケインが振り返ってリオを見た。


「では今日の終わりまでに考えておいてくれ」


 リオは絶望した。


〜〜〜〜


「お前なら、好いた女に何を送る?」


 その日、目的地に着くまでの間、偵察隊の面々は一人一人ケインにその質問をされ、すぐに答えが思いつかない者は全員宿題にされてしまった。

 休憩地点で隊員たちは話し合った。


「おい、お前団長になんと答えた」

「ダメだ、俺は女と付き合ったことがないから全然思いつかん」

「俺もだ……」


 皆、悲壮感に包まれ、頭を下げた。


「いや、そもそも突然思いつくわけないだろう! 今俺たちは魔物偵察に向かっているんだぞ! 他のことなど考えていられるか!」

「……だが今日が終わる前までに何か言わなければならんのだぞ」

「確かにそうなんだが」

「ああくそ、なんでこんな時に。団長は俺たちの集中力を削いで、隊を潰す気なのか!?」

「なんでそんなことをする、団長は真面目なんだ!」

「……そうか」

「団長……真面目だもんな」


 話し合っていた全員が黙り込んだ。


〜〜〜〜


「よし、10分休憩後、各々捜索を始めろ。何か見つけたらすぐに報告! 深追いはするな!」

「はいっ」


 目的地に着くと、ケインはベースのものに探索魔法をかけさせ、自分も馬を降りてリオを引きつれ足で調べ始めた。

 魔法を使い自分の周りに広く膜を張る。移動することで魔物の残滓を探っていくのだ。

 迷いなくザクザクと森の中を進んでいく。

 いつも通り、すぐには何も見つからなそうだった。

 ケインはリオに声をかけた。


「リオ、何か思いついたか」

「魔物ですか?」

「いや、贈り物のことだ」


 リオはケインの背中をまじまじと見つめてから、だんまりを決め込んだ。


「む、これは……」


 しばらくいくと、ケインが突然早足になって前に進み出す。

 やけに茂みが深くなったと思っていたが、その奥の草や枝は薙ぎ倒され、何かの手が加えられていた。

 先に行ったケインが片膝をつき、魔法を使って地面を調べる。

 リオはその手元を覗き込んだ。


「リオ、見てみろ」

「どこですか」

「魔物の巣の跡だ。二つ凹みがある」

「どういうことですか」

「卵があったんだろう。そして血の跡も」


 ケインの指し示す場所を次々確認して記録を取っていく。

 リオは不安になった。


「魔物同士の縄張り争いでしょうか?」

「いや……」


 ケインはあたりを見回し、何かを見つけて移動した。地面にしゃがみ込んで拾い上げる。

 土の中に埋まっていたのだ。


「ナイフの刃だ……人間だな」


 この国の魔物は狩猟法でしっかり守られている。狩猟する為には面倒な事前申請をして、許可を取らなければならない。それも期間を区切った一時的なものだ。申請なしで権利が与えられているのは騎士団だけで、それ以外が行うことは違法なのだ。


「リオ、最近狩猟の申請は出ているか?」


 リオはカバンに入れていた別の手帳を取り出し、中を確認した。


「いえ、ありません。ここ一年であった申請は全て期限切れになっています」

「では密猟か」

「……密猟してどうするんですか?」


 リオは手帳の隅にメモを取る。


「デカいのは毛皮や牙目的で、卵はゲテモノ好きどもが大金を払う」

「なるほど」

「よくないな。卵が取られたのなら、気のたった親が死に物狂いで探し回っているだろう。急いで隊のところに帰るぞ」


 ケインは拾ったナイフを保管用袋にしまうと、周囲の警戒を強めて隊のところへ戻った。

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