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このバカ!

「奥様、最近は早起きですね」


 誰がアドバイスしたのか知らないが、最近ケインの夜の始まりは早くなり、終了時間が早くなった。おかげでリーアは朝が来るまでしっかり眠れるようになり、朝もスッキリ起きられて快適だ。一つ嫌なところがあるとすれば、まだ使用人がうろついているうちから始まるので、たまに気配を感じて居た堪れなくなることくらいか。

 そしてまあ、具合の方も時間が経てば馴染むもので、メイドが聞き齧ってきた通り、だんだん悪くなくなってきていた。だがなんとなくそれを認めるのも癪だった。あの男にまだそこまで気を許したくない。


 ともかく毎日平和である。

 開拓の方は、木はあらかた伐採し終わり、今は根っこを掘り起こして抜いているところだ。これがまた見ていると大変そうで頭が下がる。

 そしていつの間にか数日前からその人達の中にケインが参加していた。騎士らしく、一番筋肉が発達しているのですぐにわかった。


 そして数日後、やっとその日はきた。

 ケインは厳しい顔でいった。


「俺はそろそろ休暇を終えて仕事に戻らなければならない」

「やっとですか。長いお休みでしたね」


 途中、五日間城に呼び出されていたが、ケインの休みは一ヶ月あった。その間ケインはリーアの部屋に通い続けた。月のものの期間を抜いても二十日はやっていたことになる。さすが騎士というべきか、夫は男性ホルモンの塊だった。

 リーアはホッとした。思わず笑みがこぼれる。


「次のお帰りはいつですか」

「何を言っている。毎日帰ってくるに決まっているだろう」

「は? ここは都市部から馬車で一日も離れてるんですよ?」

「俺は転移ができるからそれで行き来する」

「嘘でしょ……」


 ケインが当たり前のように言い放った言葉に、リーアは絶句した。


「俺はそもそも脅威から君を守るために王命で結婚したんだ」

「そうなんですか?」

「そういえば君に直接説明はしてなかったな。君の回復魔法は強力すぎる、他国から見れば脅威だし、その力を知れば喉から手が出るほど欲しいだろう。ただ体を治すだけじゃない。そして兵士に使えば、息の根を止められない限り一生戦わせられる」


 ケインの物々しい考えにリーアは青ざめた。


「……そんなこと考えたことなかったわ。みんな怖い事を考えるのね」

「それで国を攻めたら世界を征服できるだろう。君の魔法は範囲が広すぎるからな。……だから君は回復魔法が使えるなどと言って回ってはならない。拐われるぞ」


 沈黙が落ちた。

 ケインは訝しんで妻の表情を窺う。リーアはいつの間にか怒りで顔を真っ赤にしていた。


「そんなこと、何で一ヶ月経ってから言うのよ! 馬鹿じゃないの!?」

「馬鹿だと?」

「そうよ、この脳筋の体力馬鹿! もう何人にも言っちゃってるわよ! それに、知ってたらこの前喧嘩した時みたいに力を使ったりしなかったのに!」

「何故だ、君は世界中を治したから、発生源はわからないと……」

「でも二度光ったのはここの領地だけなのよ! 調べればすぐわかるわよ!」

「む……」

「ほんっとに馬鹿! もう仕事に行って! しばらく顔も見たくないわ!」


 ケインは部屋から追い出された。


〜〜〜〜


 ケインが騎士団舎に久しぶりに出勤すると、盛大な拍手で迎えられた。

 部屋には副団長のトーマス含め、普段訓練に明け暮れている面々が集まり、笑顔でケインを囲い込んだ。


「おかえりどうだった新婚生活は!」

「励んでばかりで勘が鈍ってんじゃないの?」

「いいなー若い奥さん!」

「活きが良かったもんなー」

「変なことばっかしてて筋肉が衰えたんじゃないですか?」

「確かに土木仕事で体のバランスが崩れたかもしれないな、少し鍛え直すか」

「土木? 新婚休暇中何やってたんですか?」


 みんなにポカンとされて、ケインはリーアの起こした事業について説明した。

 なるほどねえと驚く。


「へーあのじゃじゃ馬ちゃんがそんな手腕をねー、すごいじゃん」

「あんなに若いのになぁ。思いっきりのいい」

「それにしても面白い結婚式だったよな。あの後みんなで飲みに行って笑った笑った」

「上手く行ってんの? 初夜はいつしたの?」

「もちろん式の夜だ。何も知らなかったが、なんとか終わらせた。そこからは毎日だ」


 さっきまで囃し立てていた面々は目を丸くした。

 みんな基本的に剣と魔法のみで育ってきているから、女性には奥手で優しいものが多いのだ。

 ケインの事務的な言い方にはほとんどの者が驚いていた。


「え、マジで? あんなに結婚式で揉めてたのにやったの? 野獣じゃん」

「せめて数日待ったりしないんすか……」

「なぜだ、夫の権利だろう」


 ケインの質問に、皆うーんと唸る。

 トーマスが答えた。


「あんなに突然、王命で結婚するってなったら、相手のこと思いやって『仲良くなるまで待つよ』とか嫌でも言うもんじゃん。まだ十代でしょうに奥さん。怖かったろうな……」


 ケインはぼんやりと思い出しながらつぶやく。


「確かにひどく暴れていたが……全然思いつかなかったな。あんな跳ねっ返りと結婚した見返りなど、ベッドくらいでしか得られないと思ったんだが」

「……団長、脳味噌男性ホルモンの塊かよ」

「最低すぎんだろその発想……」

「そんなにまずかったか」

「あ〜〜あ、こりゃ貴族特有の冷えた結婚コースかなー。あの結婚式見て、面白いカップルだと思ったんだけどなー。子供生まれたらもう身体触らせてくれないだろうなー」

「……判断を下すのが早すぎないか」


 全員が狼狽えているケインを冷たい目で睨んだ。

 トーマスが代表して提案する。


「これからの努力次第でしょ。新婚休暇中にプレゼントとか何かあげた?」

「いや……」

「じゃあ何かあげれば?」


 ケインはうううと唸った。

 これまで女性に何か送ったことなど一度もない。

 一体何を送れというのか。

 みんながケインを観察していると、ドアが開いて伝令が駆け込んだ。


「団長、速報です。アレンストの西側で魔物の目撃証言多数ありです」

「わかった。第一隊に準備させろ。すぐに行く」


 ケインはすぐに反応して立ち上がった。


「おっ出る気ですか団長」

「鈍った体を鍛えるにはちょうどいい」


 そう言いながらも、ケインの頭の中は妻のことでいっぱいだった。

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