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偽りの花  作者: 竜胆鈴
1/2

アイリス

1

空から雨と蜘蛛の形をした機械が降ってくる。男がこちらに銃口を向ける。

「おいおい、もう終わりかよ、坊主」

初めから勝ちが見えていたかのように嘲笑う。俺は力を振り絞って右手の剣を握り直す。立とうとするが足に力が入らない。小さく嗚咽を漏らすと男はまた笑った。意識が朦朧としている中、俺は男を睨む。すると男は俺の右肩に銃口をくっつけて引き金を引く。

「がはっ…!」

声にならない叫びと痛みが一気に押し寄せる。男はそんな俺を見て正面にしゃがみ込む。がっ、と俺の顎を掴み上を向かせる。男は顔を近づけてニヤリと笑う。

「お前のその瞳、僕は好きだよ。僕が嫌いで憎くて仕方ないって感じで。」

そう言って眼球を舐め上げる。舌の感触が気持ち悪かったが、拒絶する力も残っていない。隣には姉の椿が横たわっている。向こう側を向いているため、顔が確認できない。最後の力で姉の手を握る。

「この子、君のお姉さん?」

男は尋ねる。俺は返事をしなかった。必死で鼻で酸素を取り込み、なんとか視界を合わせようとする。男は姉の顔を見るように頭を傾け瞼に指を押しつける。

「んー、君のお姉さんの瞳も綺麗だけど、僕は君の瞳の方が好きだよ。真っ黒で吸い込まれそう」

うっとりした目で顔を近づけた。また舐められると思ったが、今度は目に指を突っ込んできた。意識が取り戻され、どうしようもない痛みが襲いかかる。

「はっ…ぁあ…」

歯がガタガタ震える。

「その目、戦利品として持って帰らせて」

目を細めて首を傾げる。その瞬間、血管が切れる音がした。

「あああああああっ」

痛みが限界を迎えた。意識があるのがもどかしくなった。何も感じない方が楽なのに。自刎することも、ついに殺してもらうこともできない。

すると男の後ろから足音が聞こえた。

「やりすぎだぞ、ヴィッケ」

男がしゃがみ込む。

「大丈夫か、少年」

その姿は数年前に姿を消した父に重なった。

「行きますよ、アイリス、ヴィッケ」

別の男が声をかける。アイリスと呼ばれる男が俺を担ぎあげる。拍子に姉と繋がれた手が離される。姉の手が地面に打ちつけられる。

「えぇ、アイリスそいつ持っていくの?」

ヴィッケが嫌そうに聞く。

「こっちの少年は持っていかないよ。そっちのお姉さんの方は持ってく。ほら、ヴィッケも担いで」

ハイハイと嫌そうに答える。

「ヴィッケ、しゃんとなさい」

「わかったよアスト様」

意識が途切れてきて3人の会話が遠のく。男は耳元の内線に向かって話す。

「コードネームアイリス、回収が完了しました。…え?聞こえないって?はぁ、この国の電波は相変わらずだな。まぁ目標も回収できたし、感謝してくださいよ。この世紀の大発明者、……ーーーーー」





ーーー起きると俺の側には鍵と義手が置いてあった。





2

「あなた、とても素敵な目をしているね」

少女が頭上から覗き込むように俺の目を見つめる。部品の整理をしていた俺は顔を上げた。

「ガラス玉の方か、それとも本物の方か」

少女は考えるようにしてから、どっちも、と答えた。

「ねぇ、驚かないの?」

と、不思議そうに聞く。

「めちゃくちゃ驚いてるさ。びっくり仰天」

絶対嘘じゃん、と腕を突いた。会話が続かないので気まずい空気が流れた。

「私ね、向こうから来たんだ!」

そう言って空に浮かぶ大空中王国、ヴィルトゥエル王国を指差す。まぁ、そうだろうなとは思った。金髪の髪、彩霞の国では見慣れない服と目の色。10年前の戦争でやって来たあいつらを思い出す。

「で、何しに来たんだ?奇襲か?それとも俺の目を奪いに来たのか?」

少女は可笑しそうに笑った。

「私ね、あの国が大っ嫌いだから逃げて来たんだ!」

なんとまあ意外だった。逃げて来たということは、敵意はないのだろうか。油断はできないが、少しほっとする。

「ちなみに、どうやって来たんだ?機械でも使ったのか?」

「言ったでしょ、私向こうの国が嫌いだから、機械は使いたくないの」

「じゃあどうやって来たんだよ」

「空からびゅーんって来たよ」

なにそれ怖い。てかよく死ななかったな。

少女はドヤ顔をする。俺は苦笑いした。

「で、行く宛がなくここに来たと」

「ええ、そうよ。ここの国にしては珍しく機械をいじってる人がいるのだもの。気になっちゃうでしょ?」

「機械が嫌いなのに?」

「機械が嫌いだからよ」

お互い見つめあっていると、扉が開く。

「おーい、菖。ご飯できたって…」

紫苑が寝ぼけ眼を擦りながら入ってきた。ぱちりと少女と目が合い、次に俺の顔をじっと見る。

「おい!菖が女連れ込んでるぞ!」

「待て待て!誤解だ!」

走って葵と楓に報告しようとする紫苑を追いかける。それを追いかけてくる少女。もはや意味不明な事態になってカオスだ。

「走るな2人とも!ただでさえ汚い部屋なのに、走って埃が立って料理にかかったらどうすんのよ!」

俺たちはすかさず土下座をした。

「すんません、楓様」

少女はあわあわと慌てたのち、俺らの真似をした。

「す、すんません、楓様…?」

「よろしい」

楓はお玉を片手に腕を組み、仁王立ちをして俺らを見下ろす。その横で葵が尋ねる。

「で、その女の子は誰かな…?」

「…空からは降ってきたらしい」

一同が少女の方を見る。少女は首を傾げ、返事をする代わりにお腹鳴らせた。


「いい食べっぷりね、こんなんじゃ楓様の料理の腕がなっちゃうわ」

少女はよほどお腹を減らせていたのか、口をいっぱいにして食べている。

「これ美味しい!」

「それは小籠包っていうのよ。そっちが饅頭」

少女は料理を一気掻き込んだせいか咽せている。

「ほら、水。ご飯はどこにも逃げないからもっとゆっくり食べなさい」

楓が困り顔で水を渡す。少女は軽く会釈してそれを受け取る。

「そろそろ聞いてもいいかな?君のこと…」

葵が申し訳なさそうに口を開く。人当たりの良さそうな笑みで少女の方を見ているが、警戒しているようだった。

「私はリリー!向こうの国が嫌いで逃げてきたの」

さっきも向こうの国が嫌いと言っていたな。

「どうして嫌いなんだ?こっちの彩霞よりも資源が豊富で栄えてるイメージがあるが」

リリーは少し俯き、震えた声で呟く。

「王国が嫌いってわけじゃなくて、今の政治が気に入らないの。昔は誇り高き騎士たちが剣を使って戦っていたのに、今では機械、機械、なんでも機械。どこを見ても機械一色。鉄と錆の匂いしかしなくなったわ。昔みたいに広大な土地で一緒に剣技を学びたいのに…」

そのあとリリーが何かを呟いた気がしたが、聞き取れなかった。

「そっか、だから機械とかに疎そうな彩霞の国にやってきたのね」

楓が頬杖をついて聞いた。「うん」と呟くリリーは苦しそうだった。

「僕たちも君のこと助けたいけど…。なんせ僕たち、この国の嫌われ者だからな」

紫苑が俺の方をチラリと目配せする。

「まあ嫌われてるのは菖だけなんだけどね」

「おい葵。笑顔でそんなこと言うな」

リリーが顔を上げ、不思議そうに首を傾げる。

「なんで菖は嫌われてるの?」

「ほら、彩霞って力こそが全て!剣と鉈で闘うのが漢!って感じだろ」

俺は腕を組んで、台詞っぽく言った。

「だから、俺みたいに機械をいじって機械で戦う向こうのやり方は嫌われてるんだ」

俺は右手の義手を見る。

「その義手はあなたが作ったの?」

「いや、父さんが。これを超えられるものは未だに作れねーよ」

義手の指一本一本を動かす。繊細な動きもできる優れものだ。

リリーがお父さんと呟く。そして思い立ったように立ち上がる。

「私、ここで働きたい」

一同がリリーを見る。

「働きたいって言ってもどんな仕事してるかわかってないでしょ」

葵が笑いながら言う。

「どんな雑用でもやる!料理とか…」

「私の仕事ね」楓が手を上げる。

「っあ…掃除とか!」

「僕の仕事だね」葵がニヤニヤと笑う。

「っっっ…洗濯!」

「僕の役目だな」紫苑が申し訳なさそうに言う。

「買い出し!」

「…ごめん、リリー」俺は苦笑いをしながら言う。

リリーは、ぬはぁと変な声を出して椅子に座り込む。

「…まあここに置かせてあげようよ」

口を開いたのは紫苑だった。

「僕たちの仕事はそれだけじゃないし。彼女、僕と同じ匂いを感じる。どうする?菖」

紫苑も家出の身だったので、どこか共感する部分があったのだろう。

「そうか。わかった」

俺は立ち上がる。

「ようこそ、ギルド月光へ」

「意外だな、菖君が新しい仲間を入れるなんて」

「まあ長年このメンバーでやってきたしね」

「新しいお友達でも欲しくなったんじゃない」

葵と紫苑と楓が思い思いに発言する。

「…」

俺は咳払いをする。

「このギルドの本当の仕事は『蜘蛛型』を壊すことだ」

「蜘蛛型?」

「ほら、10年前の戦争でお前の国が空から落としてきた小型のメカだ」

リリーは心当たりがなさそうだった。

「まあいい。殺傷能力はほぼないが、落としてきたってことは何かしらの目的があるんだろ」

「監視とか、視察ってことね」葵が付け足す。

「そいつらを倒して鉄やらなんやらの部品を集めてる」

「なるほど」とリリーが目を輝かせる。

「この国は自然は豊富だが、鉄とか金とかが採れないからな」

「それを使ってなにをするの?」

「義手や義足を作るんだ。他にもいろいろ。10年前の戦争で手や足を失った人が沢山いる。こちらの脅威となった鉄の塊なんぞ使いたくないと思う人が大半だが、どうしても欲しいという物好きが時折俺を訪ねてくる。無いよりはあるほうが楽だしな。」

すごいと言ってリリーが目を輝かせる。その様子は初めて手品を見た子供のようだった。

「ところでリリー、お前は剣を使えるか?」

俺は壁にかかってる剣を取り上げた。

「今日からこいつがお前の相棒だ」

そう言ってリリーに剣を差し出す。

リリーは嬉しそうに大きく頷く。





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